小笠原崇裕の乗るTREK Top Fuel 9.9

私が2002年にチームトレックに所属する少し前にこのフューエルが誕生し、世界最高のクロスカントリーフルサスペンションバイクという名を欲しいままにしていた。当時からそれほどまでに完成度の高かったフューエル、あれから10年の歳月が経ったいま、最新モデルの戦闘能力を追ってみたい。

バイクを持ち上げてまず驚いたのが、前後の重量配分の良さ。前が重い、後が重いという感じが無く、BBを中心として真ん中にバイクの重さがきていた。前後重量配分の良いバイクは、左右のコーナーの切り替えしが連続する場合に、ブレーキ→重心移動して曲がる→加速という一連の動作を最小限で行える事にある。これが後輪側が重い場合は加速のタイミングを早めないと1テンポ遅れてしまう。激坂を登る際にはどうしても感じとして重さダルさが出てしまうってのもある。こういった点からも重量配分が良いバイクってのは登っても下っても扱いやすい。

走り出して1番ビックリしたのが、木の根が張り巡らされた箇所を何の躊躇も無く真っ直ぐ走れてしまった。ちょっと信じられない感じがしてもう1度同じスピードとラインで走ってみたが結果は同じ。本当に前後100mmトラベルか?と疑いたくなる走破性。感覚的には120mmトラベル、下り系オールマウンテンのジャンルに近い感じ。

フレームとリヤサスペンションユニットが物凄く良い感じに融合されていて、フレームのたわみを計算に入れての設計なんだと思われる。多くのフルサスペンションバイクは、たわみを計算に入れていないように思える、フレームがたわんでリンクに計算外、想定外の応力が掛かりリヤサスペンションが捩れて動かないとか、逆に動き過ぎるとか、そういったバイクが多い中で、フューエルはリヤサスペンションが動いていないように感じる。この動いていないというのは本当に動いていないわけではなく、実際には物凄く良く動いているのだが、リヤサスペンションの「今動いてますよ」っていう動きが読み取れないのである。フレームのたわみとリヤサスペンションの動きが完全に一体化してしまったような不思議な感覚。

ペダルを踏んだ時の足への感触は柔らかい。これだけバリバリ硬派なバイクにしては拍子抜けするほどに当たりの角がなく丸い。アルミのフルサスペンションバイクでは踏み応えが結構あるが、フューエルではこれが本当に希薄なのでアルミのリジットから乗り換えたら「フワフワして進まない」と錯覚するかもしれない。しかし実際には凄く速く進んでいる。

フルサスペンションバイクとはいえクロスカントリーレースを主眼に置いたバイクでは、登りでシッティングのまま握り拳大の石を乗り越えようとすればバイクが跳ね、サドルからお尻が離れる。こうならない為にも石の直前に抜重をして乗り越えるのだが、実際のトレイルやレースはこういった事の連続で、常に抜重の連続。これが凄く体力を使うし足にくる。これを嫌がってサスペンションのエア圧を下げれば動き過ぎてバイクが重く感じる。この抜重のし易さというのも重量配分の良さによって現れてくる、荒れたトレイルではトラクションの良さをリヤサスペンションに求めたがるが、私はそれよりもこの抜重をいかに少なくして登っていけるか、という点を大切にしている。フューエルは絶対的なトラクションは高いように感じられなかったが、抜重を少なくして走れたので泥の路面や、ツルツルになった木の根といった路面ではコントロールしやすい。

過剰なフレーム剛性、サスペンション本体頼みで設計されたフレームとは大きく違う。トレックはロードでも過剰なフレーム剛性を嫌い、芯がありつつも人間の感性に合わせるような踏み心地を残している。トータルバランスを考えるとフルサスペンションバイクはロードとは比較にならないほど難しい物作りとなるが、本当に上手く纏めてきている。

正直言って、ベタ褒めする事は滅多にない私だが、フューエルは走りにおいて穴という穴が見付からない。

しかし、これほど凄いバイクを投入しておきながら国内のマウンテンバイクの公式戦であるJシリーズで、フューエルが走っている姿を見る事が非常に稀になっている。フルサスペンションバイクでレースを走るといったらフューエル・・そんな時代ももう過去の事になってしまったようだ。

今一度、このバイクをしっかりと売り出した方が良いのではないか!?と、月日と共に忘れ去られていってしまうには、あまりにももったいないバイクであった。
 
 

Report:小笠原崇裕
Photo:The Bike Journal
Date:12.2.29