新型Specialized S-Worksシューズを試す

もはやロードシューズの定番と言っても良いのではないか?SpecializedのS-Worksロードシューズがフルモデルチェンジした。最初から結論を言っておくと、このシューズは自転車シューズ史上の金字塔であり最高傑作である。

個人的な話になってしまうが、筆者自身は靴の相性が非常に激しく合わない靴を履くとものの10分で足が痛くなり厳冬期など歩けなくなってしまう事もたまにある。なので、スキー、自転車、ランニングを問わず靴選びに関しては非常に慎重かつ、最高の靴を探し求めて日々試行錯誤を繰り返しているのだが、その私をしてこれほどに完成度の高いサイクリングシューズは今までに出会った事がない。というか、つい昨日まで最高だと思っていた先代のS-Worksシューズももうゴミ箱行きのレベル。ちなみに有名な陸上選手の先輩の言葉「気に入ったシューズがあったら無くなる前に3足買っておけ」に従って、先代を気に入った私は3足買ってしまったので非常に悩ましい。

靴なので個人的な合う合わないが非常に激しいのは解った上でレポートして行くと、自分の足(41.5-42サイズ、幅広め、扁平足気味、甲が高め。ランニングシューズだとアディダスは痛くて、サロモン・アシックスと相性が良い。)で履いた時の包み込まれるようなフィット感が半端ない。試乗時には7人ほどの業界関係者が同じシューズを試したが結果は異口同音。
ソールの痛い、痛くないは成型インソールを作る事である程度解消出来るが、個人的にはそもそもスペシャライズドのソール・インソールとは相性が良く、3世代前のBOAが初めて採用された時から成型ソールを作らずとも痛くなかった。これについては同じ意見の人が多いようでそれが理由で今日のS-Worksシューズの隆盛につながっていると思う。

それもその筈、Specializedでは特にアジアフィットとは謳っていないが、最初に足型を開発する上でアジア人も含むもの凄く膨大な量の人の足型を取った上でモデリングして最適な形状を導き出している。この辺りの努力は数年前に担当エンジニアと話した事があって、ちょっと長くなるので書ききれないが「あー、なるほどね」と納得させられたのを鮮明に覚えている。その努力は、ズラリと並んだプロトタイプのシューズを見ると、一言で良く頑張りましたの域。

今までのS-Worksシューズで問題(問題と言っても他の大半のシューズに比べると遥かにまとも)であったのは、長時間履いた時の足の痺れや局部の痛み。その辺りが完全フルモデルチェンジした足型とアッパーの採用で大幅に改善されている。
また、縫い目を一切なくしたフルサーモボンディングのアッパーの採用により、文字通り「包み込まれるような」フィット感を実現。フロント、内側は柔らかめの素材、かかと側、外側は固めの素材と異なる素材を組み合わせて作られているのは触ってもそうだが、履いていても良く解る。特に凄いのは足の内側の包み込まれ感が半端ない事だ。ゆえにBOAクロージャーを締め込んで行っても局部的な圧迫感がないので従来よりも少し強めに締めても長時間足が痺れる事がない。ロングライド、ロードレース、アイアンマンではこの効果は大きいだろう。

カーボンソールの剛性に関してはかかと部分を除いて従来モデルと大差ない印象だが、先代よりもソールはかなり薄くなっている(4.5mm厚)。シューズ全体の改善により、ボルダー医療センターのテストでは6.5Wの出力向上が見られたと実験結果を公表しているが、靴に関してはそんな事はどうでもよく単純に気持ち良く履けるかどうかが問題だ。集中して長い時間走れればそれだけ速いし、まずそれ以前に楽しい。ちなみに重量は片側実測で211gなので、普通に軽い。

プロ・エリートレーサーの視点でこのシューズを語ると、もう少しアッパーが硬い方が良いとか意見が出てくるかもしれないが、アマチュアレーサー、ホビーサイクリストの視点で見ると、まず痛くなくて、気持ちいいかどうかが最重要。痛くないに関しては先代のシューズでもそこそこに達成していたが、気持ち良さに関しては先代シューズでは自転車から降りた時や長時間乗っている最中にBOAを緩めたりしていたのが、このシューズではない。降りてもそのままの締め具合で全く気持ち悪くなく、事実、試乗後にスニーカーに履き替えるのを忘れて話し込んでいたのには自分でも驚いた。

あと、先代最大の問題であった履きにくさが改善、むしろBOAを採用していないラチェット式の普通の他のシューズよりも履きやすくなっているのも大きな特徴だ。先代シューズについて「履きにくいんですが、どうすればいいですかね?」とSpecializedアドバイザーの竹谷賢二さんに聞いたら「BOAのレースを一旦外しておくと良い」とアドバイスされたが、やはりそれでも履きにくかった。一方で新型はレースを外さなくてもスッと足が入るので、日常のライディングからトライアスロンのトランジションまで全く問題無し。日々の事なので、やはりSpecializedもこれは問題だと思っていたのだろう。非常に大きな改善点だ。

ここまで完成度が高いと、それだからこそ見えてくる問題がある。それは左右の足のサイズ。大体の人が左右で足の大きさはほんの少し異なっており、更に膝のカント調整のシムを片側だけ違う枚数で挟んだりすると例えば私の場合、42サイズを買って左足はシムを挟んでピッタリなのに右足は緩い。という事になる。カント調整の効果は絶大なだけに、その辺りに悩んでしまって、先代74Shoesの時は42サイズに飽き足らず、わざわざ海外に行った時にストアに行って(74Shoesのハーフサイズは日本に入ってこなかった)41.5サイズを買ったりした。同じ悩みの人は、そこそこいると思われるので「例えば1.5倍の値段を払うと左右好きなサイズを選べるなんてサービスがSpecializedコンセプトストアで始まってくれませんかね?」とSpecializedの広報担当氏に聞いたら「実現はなかなか難しいと思いますが考えてみます」との事。反響が大きければ実現するかもしれない。実現すれば自転車シューズ選びの革命であるので、個人的には実現して欲しい。

足の痛みに悩みはあるけれどSpecializedのシューズを履いて競合ブランドのバイクに乗るのはちょっと・・・。と言う人も勿論多いだろう。自分自身もかつてはそうであった。とはいえ一度履いてしまったら、この新型シューズに関しては戻れないと思う。また、靴なんて痛くなければ何でもいいと言う靴を選ばない足の人は、このフィット感を体感してみて欲しい。本当にそれほどに完成度が高く、自転車史に名を残す傑作シューズと断言出来る。今すぐストアに行って履いてみると、言っている事の意味がきっと解って頂けるだろう。

 
 

report:Kenji Nanba
photo:Kenji Nanba
date:12.12.21