GIANT PROPEL ADVANCED SLを難波賢二がテスト

プロペルがプロペラから派生した造語なのかどうか聞き忘れたので、GENIUS辞書を引いたら「PROPEL」=「推進する、進ませる、(人を)駆り立てる」とある。私を推進させるGIANTの新型バイクPROPELは要するにエアロロードバイクだ。

ライバルは、スペシャライズドのヴェンジ、CERVELOのS5、スコットのFOILなど。既にMERIDAなどは2世代目となるREACTOを発表するなどエアロロード界が世代交代を進めている中で最後発としてやって来た1発目、GIANTのPROPELとはどんなバイクなのだろうか?

コンセプトは単純明快。競合よりもエアロ。それでいて走りはエアロバイクのそれではなく、GIANTご自慢のTCR ADVANCED系のオールラウンドロードバイクに近づいた走り。そのためにGIANTが行ったのは、2年間を超える開発期間で85台を数える試作車を作ってエアロと走りの追求を行ったという。最近は、どこもかしこも「過去最長で最大グループでの開発」というけれど、結局、見て・乗って・走りがどうなのかだけが真実なので、3日で作ったけど最高だったらそれでいい。

PROPELを見て、「あれ、フレームがスローピングじゃない!」と思った読者は古くからのサイクリストだろう。90年代の中盤、カーボン時代の始まりに当時スポンサーしていたONCEチームのチームバイクでロードバイクのフレームをスローピング化してしまった張本人のGIANTがスローピングを辞めた。これは革命的な出来事と言える。

何故か?理由は簡単で、エアロ性能を突き詰めて行くとスローピングはどう考えても不利との事。初期の段階のプロトタイプはスローピングだったり、キャリパーブレーキがついたり、BB下にブレーキを持って行ったりとモデリングと試作車での試行錯誤を繰り返して行き着いたのがセミホリゾンタルトップチューブで内蔵VブレーキのPROPEL。

エアロ性能を突き詰める上でGIANTが気にしたのは、風洞実験室での静止状態での速さよりも、リアルワールドでの空力性能。なので仰角10°前後の風に対して強烈にエアロ効果を発揮し、風洞実験でも実際にペダリングの動きを再現出来るマネキンを作って実験を行ったという。(ちなみに、丁寧にも競合バイクを含んだ実験の様子の証拠写真まで用意していた。)空力性能はボトル装着時の方が高いというオマケ付き。

結果、現実世界での状況に近づけてGIANT純正ホイールP-SLR1を履いた状態で60分間時速40kmで走行した場合に、例えばサーベロS5と比べて32秒速いなど、圧倒的な空力性能を実現したという。

実車を見ると、空力性能高いでっせと言わんがばかりの、小指の先の細さ程のトップチューブのシート側端の細さが目につく。他のブランドの空力エンジニアに聞くと、バイクのエアロ化で最も大事なポイントはヘッドチューブ、トップチューブのシート端、フォーク、ハンドル周り。との事なので、確かにそれぞれの仕上げを見ると非常に練り込んでエアロ化してあるのは、流石に最後発だけあって考え抜かれている。


乗ると良い意味で拍子抜けする程に普通。まず、エアロバイクとしては乗り心地が非常に良い。中速ではリアバックからコツコツコツと常に衝撃を伝えて来るが、全体としての衝撃のいなし方、微振動の処理は、今までに乗ったエアロバイクの中では一番上手く抑えていると思う。

次にエアロバイク独特の捻れ剛性の弱さ、横剛性の弱さについても、ライバルを研究し尽くして、ウチは違いますよと言うだけあって確かにエアロロードを忘れる仕上がり。これが新しいTCR ADVANCED SLですよと言われても同時に比べなければ違和感はない。特にスプリント性能はフレームの良さとヘッド周りの剛性、エアロフレーム独特の50km/hからの伸びがあって秀逸と感じた。あとヒルクライムが軽く、ヒラヒラと登る。ちなみに、これはSRAM RED22を採用した最高級グレードのPROPEL ADVANCED SL1の印象。

一方で、ここはと思ったのは、そのエアロ性能の高さから来る安定性だろうか。競合比較の空力性能グラフを見るとZIPP404を装着した時のヨー角7°から10°程度の空力性能がズバ抜けて高く、時速40km/hで15W程違うというレベルのモノだったが、そのグラフでは0°の時は大して他と変わらない。と言う事は、ヨー角が変化する時の特性の変化が急という事を意味しており、これが試乗でも如実に感じられた。

今回のテストは、修善寺のサイクルスポーツセンターの4kmコースを周回する形でおこなったが、終止4から5m/s程度の風が吹くなかシケインや最終コーナーを全開で回ると、時折フワッとフロント加重が抜けてハンドルを抑えていかないと身の危険を感じるという事があった。筆者は普段からZIPPホイールを使っているが、ここまで感じる事はあまりないので、これは極限まで高くなったエアロ性能の弊害とも言える。一方で、コーナリング中に踏んで行った場合でも、スピードの伸びは明らかに速い。

ちなみに、純正のP-SLR1ホイールを履いたPROPEL ADVANCED SL3にも乗ったがこちらでは、そういう怖さは感じなかったので、SL1やSL0(デュラエースDi2仕様)などを購入しても、普段使いのホイールはZIPP以外のホイールを使って、決戦用はZIPPという選択をすれば問題ない。

PROPELから話が飛ぶが、ZIPPのホイールがヨー角度の変化で挙動を乱すのはホイールエンジニアリングの世界では念仏の様に唱えられており、筆者が耳にしただけでもMAVICもBONTRAGERもROVALも全員、ZIPPはコーナリングや突然の風で危ない。と話のを聞いた。それはその分、バチッとハマった条件ではZIPPの空力が良いという事を意味するのだが、PROPELのフレームの空力性能との組み合わせでは、それは武器となり、同時に危うさにもなっている。ちなみに風の吹いていない林間での下りのコーナリングは、吸い込まれるような速さが体感出来て非常に気持ちが良い。特に50km/hを超えると圧倒的だ。

内蔵Vブレーキは、途中からの制動力の立ち上がりが急でトリッキーだが、慣れれば問題のないレベル。個人的にはキャリパーブレーキの方が好みだが、これはエアロとのトレードオフという結論なので無い物ねだりをしても仕方がない。Vブレーキ系のブレーキの中では上出来と言える仕上がりと言えるが、カーボンアームよりもアルミアームを採用した下位グレードの方がフィーリングは良かった。

バイクコントロールの腕は条件によっては求められるが、走りの性能自体は非常に高い。「エアロはいいんだけど、エアロバイクの走りはちょっと違うんだよねー。。」という人は一度試してみて良いバイクだ。また、集団内でのフラツキや、極限のブレーキ性能を考えなくて良いエイジでショート専門のトライアスリートには豊富なディーラー網もあって太鼓判を押せるバイクと言える。
 
 

report:Kenji Nanba
photo:The Bike Journal
date:13.7.31