小笠原崇裕が試すS-WORKS STUMPJUMPER HT CARBON WC 29


国内のマウンテンバイクジャパンシリーズにて非常に高いシェアを持つメーカーであるスペシャライズド。スタンプジャンパーが2014年モデルはリニューアルされ、よりレースに特化したモデルとなって登場した。各社に共通する事だが、フラッグシップモデルにはスラムXX1、カーボンホイールが奢られている事が多く、スタンプジャンパーも例外ではない。約1時間30分から1時間45分を目安として行われる近年のXCO(クロスカントリーオリンピック)、この時間内で最速で走らせられる性能を突き詰めたとはスペシャライズドの弁。

一昔前のようにクロスカントリーが2時間30分とか3時間を超えるようなレース形態ではなくなっているので、後半に体力を残すための乗り心地とか、足に反発の少ない特性とかよりも、フレームのBB周辺の剛性を上げて反応性をリニアにして鋭くなるようにしたようで、先に試乗していたプレスからは「硬くなってる」との話を聞いていた。乗ってまず感じたのが、ペダリングと同時に反応するような機敏な加速。

この加速の良さは、BB周辺の剛性というよりも、チェーンステイとヘッド周りの高い剛性からくるものだと感じた。29インチ特有であった加速の悪さを全く感じさせないくらいにスパッっと進んでいくのにはビックリしたが、この加速の良さに寄与しているのは他にはスペシャライズド純正のS-Works OS carbonクランクの剛性の高さもかなりあるように思われる、スラムのXXクランクがゴムを踏んでいるかのような感じで「グニョン」とした踏み心地に対し、S-Worksクランクは軸も含めて踏み心地がアルミのような「ゴチ」っとした感触がある。里山ライド等の緩いライディングではとてもじゃないが硬過ぎて逆に疲れてしまうだろう。

チェーンステイの剛性はそのまま乗り心地へとも繋がっているが、確かに剛性が上がったぶんだけ突き上げ感は以前のモデル以上に感じられた。とはいっても、もともとスペシャライズドはカーボンになってからはガチゴチの硬いマウンテンバイクは作っていなかった、乗り心地やフィーリングを大切にしていたのだろうし、様々なニーズに合うように設計していたのだろうが、このスタンプジャンパーのようにXCOで勝つという明確なビジョンの上で設計されると反応性や軽さに優位性を持たせて乗り心地は最低限で良いとなったのだろうが、それでも腰が割れるような酷い突き上げは殆ど無い。

あくまでも今までのスタンプジャンパーと比べて硬くて突き上げがあるだけ。特にRoval Control SL 29carbonのホイールがかなり硬く、このホイールとの組み合わせではエリートクラスのライダーでもコントロールを完璧に出来ないかもしれない。コツコツと振動が伝わってきて、砂利や濡れた木や岩の上では接地感がとても希薄で弾かれる事が多かった。タイヤと空気圧の設定はもちろん、ライディングフォームをしっかり固めて走らないと、狙ったラインをトレースする事が難しい。こういった硬さがある分、登りでは面白いようにホイールが転がって行く。クランクとホイールの回転が上手く同調している感じが本当に気持ちが良かった、この同調にズレがあるバイクが多く、クランクの逃げ、フレームの逃げ、ホイールの逃げのどこかがズレると気持ちが良くない。やはりこの3点を自前で揃えて来ているだけあって本当に上手くパワーの繋がりが感じられた。

一方で凹凸の激しい路面ではホイールからの跳ね返りが大きいので生半可な体力と筋力ではバイクを押さえ付けて走る事が出来ない。へたしたら29インチだとは気が付かないくらいに弾かれるが、やはりそこは勝つために妥協をしなかったが故の「性能」だろう。コーナーでのハンドルの切れ込み方が26インチのような軽さというか、狙ったラインの通しやすさがあった。29インチの走破性を活かして真っ直ぐ突っ切るって走り方が29インチでは良しとされていたが、それはあくまでも優しいトレイルでの話。ダウンヒルレースを行えるような場所を走る場合には狙ったラインを確実にトレースできるハンドリングってのが29インチでも必須。今までの29インチは、大型車が交差点を曲がるように大回りで曲がっていた事が多かったが、スタンプジャンパーは26インチに非常に近いラインを通す事が出来た。

より多くのラインを選べるようになったので、速く走らせられるだけではなく、操る楽しさも増えてライディングの幅が広がっている。ヘッド周りの剛性の高さが細かなハンドリングに寄与しているのだろうが、この剛性を活かすためには腰を引いて下るようなポジションでは全く活かせない。しっかりとペダルとハンドルに乗って下らないといけない。多くのライダーが下りは腰を引いて乗るものと思っているが、実際は腰を引いてはいけない。しっかりと真ん中に乗り、プッシュしてサスペンションを路面に押し付けるような動きをちゃんと入れてあげるとリヤバックの跳ねはほとんど気にならなかった。足裏へのコツコツとした硬さは感じたものの、リヤバックの突き上げがフレーム前方まで残ってしまってハンドリングにまで影響が出る事は無く、バイクの真ん中に乗ってさえいれば非常に扱いやすい。

気になった点はサスペンションのRockShox SID World Cup 29 Brainが、どれだけセッティングを変えて乗ってもブレインの宿命なのかストロークする際に「カクン」と引っ掛かってからストロークを始めてしまう。だいぶ改善はされたとは聞いていたが、慣れの問題という事もあるだろうがやはり気になる。内部の構造上仕方のない事かもしれないが、ブレインの機構はライダーに合う、合わないが大きく出るだろう。このスタンプジャンパーに言える事は、サドルバックにポンプを携帯してトレイルを長く走って楽しむなんて事は考えられていない。リヤホイールのクイックレバーすら軽量化の為に省かれて5mmアーレンキーでのホイールの脱着となる。XCOのレースで1秒でも速く走る為のバイク。ここまで突っ込んだバイクを市販化し、日本でも展開していく事に素直に敬意を払いたい。
 
 

report:小笠原崇裕
photo:The Bike Journal
date:13.11.07