ゲイリー・フィッシャーの語る29erのあの頃と今

世界のMTBは、もはや29インチであると言っても言い過ぎではないどころか、アメリカマーケットに限って言えば26erは完全に過去のものになろうとしている。日本のMTB市場でも29erがスタンダードになるほどの勢いで拡大しているが、もう一度考えておきたいのは、一体誰が29erを考えだしたのか?だ。言うまでもない、MTBの生みの親、ゲイリー・フィッシャーである。
という訳で、ゲイリー・フィッシャー本人に改めて29erの今と始まりについて直接話を聞いた。何故、今、29erが流行っているのか?

ー GARY FISHERからTREK | GARY FISHER collectionになりましたが調子はどうでしょう?

ハッキリ言おう、イケイケだ。どのくらいイケイケかと言うと、MY2010に比べてMY2011は500%売り上げが伸びた。5倍だ。5倍。GARY FISHERブランドより、TREK | GARY FISHER collectionの方が、多くのディーラーで、多くの人の目に私の作品を知ってもらう事が出来、売り上げも5倍増した。言うまでもない。 GARY FISHER collectionは成功だ。
前から言っているけど私の人生の目的は金儲けじゃない。このMTB、そして自転車という素晴らしい乗り物を多くの人に乗って貰い、この素晴らしさを世界に広める事だ。だからGARY FISHER collectionは、理想的なコラボレーションであり成功だ。

ー アメリカでは、今、29erが流行っていると聞きますが、実際どのくらい流行っているのでしょう?

アメリカでは1000ドル以上のMTBの80%はもはや29erになった。ハイエンドでは90%だ。29erが流行っているというよりスタンダードになっている。むしろ流行りだしたという言葉を使うならヨーロッパだろう。伝統的に保守的な彼らは2009年の夏に突如29erに目覚めた。ドイツのある雑誌が29erと26インチの力学的な比較を行ってすべての面で29erが勝っているという実験結果を出した事がきっかけとなり、ものの数ヶ月で29erの時代になってしまった。既に主要メーカーの欧州で販売されているMTBの半分以上は29erだ。欧州だけではなく世界中で爆発的に29erがスタンダードになろうとしているのだ。


ー ごく初期の29erをご自宅に伺って乗って以来、かれこれ10年が経つのですが、当時は29erは奇人扱いをされていましたよね?ちょっとその頃の裏話を教えていただけますか?

あれは、そうだ。ちょうど10年程前で市販するかしないかの前後だったけど、29erの最初のアイデア自体は15年前にスケッチを起こした。1997年の事だ。最初にアイデアを出したものの、面白いと思ってくれる人はあまり多くはなかった。だけど私は知っていた。26インチは本当のMTBの為のサイズじゃないってことを。
何故なら、MTBを最初に発明したときにたまたま手に入りやすい規格のリムとタイヤが26インチであっただけで、当時からロードバイクの経験もあってジオメトリーにこだわっていた私にとってそれは本当の意味で本望ではなかったが、ものの数年でMTBは急速に世界中に広まってしまったので、それが標準規格になっていった。
だから29erによってMTBを再定義したんだ。29erのバイクを作る為に、様々なパーツメーカーと交渉したが最初は誰も見向きもしてくれなかった。古くからの友人だったWTBのMark SlateとSteve Pottがタイヤを作ってくれたお陰でアイデアを実現化出来た。
大変な苦労ではあったが、これはやり遂げなくてはならない革命であったし、時間がどれだけ掛かるか解らなかったが、最後に成功する事は最初から解っていた。でも、MTBを発明した時と同じで私はこのアイデアを独占しようとは思わなかった。スタンダードの規格として多くの人に乗ってもらいたかったからだ。


ー 市販の29erは2001年に初めて登場しましたが、当時の話を教えてもらえますか?

2001年に29erを発表したときは、正直言ってアイデアが市場の先を行き過ぎていて、ユーザー、ディーラー、他メーカーのすべてから理想的な反応は得られなかった。新しい製品やアイデアには常に市場は冷ややかだからね。数少ない29erの理解者はそのバイクに乗った人達のみであった。当時は、完璧でなかった面もあったが、それでも26インチに対してのアドバンテージは明らかであった。乗れば解る。それが29erだ。
初期のプロトタイプ29erにはマニトウ製のフォークを装備してテストして、初期の市販段階ではマルゾッキ製のものを採用した。
最初の3年間の販売は「苦戦」の一言だった。私自身は29erの意味を知っていたので諦める事は無かったが、周囲は半ば諦めかけていた時期もあったのが事実だ。ここで言っておきたいのは現在の29erの存在を救ったのは、当時GARY FISHERブランドのプロダクトマネージャー(現在はTREKの自転車全体のプロダクト統括責任者)を務めていたアーロン・モックの存在だ。彼はごく初期から29erの意義を理解してくれていて、窮地に立たされた29erを周囲を説得して継続させる方向に動かしてくれた。
そうして4年目に発売したDUAL SPORTS、これはオンロードとMTBの融合を図った29erであったが、このモデルが成功した事をきっかけにして、翌年には全米24時間耐久選手権やシングルスピード選手権で優勝したりして29erを見る周りの目も変わり始めた。そして2007年にG2ジオメトリーを採用したバイクを発表した。その先の成功はもはや語るまでもないだろう。


ー ジオメトリーには言いたい事があると常々仰っていますが、GARY FISHER collectionのバイクは何が他と違うのか解りやすく教えてもらえますか?

簡単に言うと開発に掛けているコストが違う。大きなタイヤのメリットはもう語るまでもないが、例えば、段差を乗り越えやすく、トラクションが掛かって、前転しにくく、グリップする上によく走る。ウェイトのデメリットは既に過去の話なので実用上悪い事は何も無い。だからテキトーにフレームを作って29erのタイヤを填めればある程度のメリットは得られるし、この得られるメリットを最大限にしたのが2006年までのGenesisジオメトリーを採用したGARY FISHERの29erであった。
問題はハンドリングだ。これを解決する為に我々は莫大な時間を開発に掛けてきた。バイクはハンドリングが良くてナンボのモノだからだ。G2ジオメトリーは専用設計ジオメトリーのフレームに専用設計のフォークを採用している所がキモだ。専用設計のヘッドアングルとフォークのトレイル量、そしてフレームジオメトリーとのチューニング。これによって高速の安定性を極めながら低速でもスリーピーじゃないハンドリングを得ている。スリーピーなハンドリングじゃあトレイルで乗っても楽しくないだろ。だからG2なんだ。
それに加えて29erの弱点であるホイール剛性を向上させるためのFCCという大径フランジのハブや、反応の良いペダリングの為の理想的なリアセンターを実現する為のダイレクトマウントFD、テーパーヘッドチューブなど、バイク全体をトータルで理想的な所に持って行っている。手間は掛かるが、理想のバイク作りとはそういうものだ。


ー もはや29erは標準になったと言い切れますが26インチバイクは絶滅してしまうのでしょうか?また、29erにはどんな未来があるのでしょうか?

アメリカではクロスカントリー以外にDH系のフリーライドが人気だしダートジャンプも人気だ。30代以上の年配者にはクロスカントリーが人気だが、20代にはフリーライド、10代ではダートジャンプが流行っている。余談だが高校生にはXCレースも流行っている。
フリーライド、ダートジャンプの世界では26インチバイクは生き残るだろう。29インチバイクは速いがフリーライドとダートジャンプに求められるのは速さではない。ハンドリングだったり、扱いやすさだったり、楽しさだったりする。こういった面では26インチにも分があると言える。
だけどスピードを求めるなら29erだ。だからXCは近い将来殆どが29erになるだろう。もう一つのスピードを求める競技と言えばダウンヒルだ。我々も29erでダウンヒルバイクを作ってテストを行っているが、実は他の複数のメーカーも29erのダウンヒルバイクを実験中だという情報も持っている。29erのダウンヒルバイクが、近い将来登場する事となるだろう。
 
 

interview:Kenji Nanba
photo:The Bike Journal, GaryFisher
date:2012.1.23