驚きの1739g。SRAM RED 2012が正式発表

新型SRAM REDがいよいよ正式発表された。スラムのプレスリリース(英語版、以下翻訳)にはこうある。

「本日、2012年2月1日にSRAM RED 2012は正式に発表されます。新REDではロードレースコンポーネントテクノロジーの頂点を採用し、数えきれない程の先を行く性能をプロフェッショナルと熱狂的なサイクリストに提供します。新REDでは、伝統的な最軽量であること、完璧なシフト性能、エルゴノミクス性能、そしてゴージャスで美しいスタイルを受け継いでいます。」

つまり、アップデートは完全なキープコンセプトだ。プレスリリースにある完璧なシフト性能は先代がはたしてそうであったとは思わない(決して悪い物でもない)が、他の3点、重量、エルゴノミクス、美しいスタイルは間違いなく事実である。やはりこれらの点を磨き上げて、特に変則性能を重点的に改善するというアップデートは、先代REDが1代目にして世界市場な完成車市場では、DURA-ACEを脅かす存在に育った事を考えると極めて妥当だろう。

驚くべくはその重量だ。チェーン込みのコンポーネント重量1,739g(BB30仕様)。先代比で凡そ1割の軽量化となった。ちょっと興味本位で手元にある世界初のSTIレバーを採用した7410DURA-ACEの資料を見ながら重量を計算してみたらチェーン込みで2,691gだった。その差は実に952g。およそフレーム1本分違うぐらいの事が言えると面白いかと思ったらCannondale SuperSix EVOは695gなので、むしろフレーム+軽量フォーク分ぐらい軽い。7410DURA-ACEは1991年にMY92として登場したモデルなので20年、3世代でコンポーネントというのはそこまで軽くなったのである。ちなみに最新世代の7900DURA-ACEは2,087g。コレと比べても一般的なフォーク1本分ぐらい軽い。

では、NEW SRAM RED 2012は何が変わったのかを順を追って紹介する。
大きく説明すると、変速はリア10速のフロント2速で変わらず。ブレーキは新機構を搭載する替わりに前後シングルピボットになった。フロントディレーラーはインナープレートに可変アングル機構をつけてトリム操作を不要にし、クランクセットはREDグレードのQUARQパワーメーター内蔵クランク搭載モデルもラインナップされる。

まず、シフター&ブレーキレバー。

シフターの基本はダブルタップなので操作方法は大きく変わらない。リアの場合、軽く押すとトップに、大きく押すとロー側にマルチ変速が可能。フロント側は、フロントディレーラーの機構変更によりトリム操作が無くなった。
むしろ大きく変わっているのはエルゴノミクス性能で、これは完全にフルモデルチェンジと言えるアップデート。握り心地はSRAMに言わせると大きく向上している。トップを握った際のハンドルバーとの取り付け角度を変更して、フード形状を改善し、従来は握った時にバーテープの上からその存在を微かに感じられたワイヤーの取り回しも改善する事で握り心地を良くしている上に、日本人には嬉しい事に今までも十分に許容サイズだったフード直径が小さくなって握りやすくなっている。
更に、例えば小笠原選手は「SHIMANOとSRAMのフードは軽く流している段差を乗り越えた際にフードから手が抜けそうになるため、フードに関してはカンパが一番良い」と公言するが、そういった人からの声を聞いたのだろう。フード先端の返しが大きくなっている。
一方でブレーキレバーは長くなり下側からでもアクセスしやすくなっている上に、2.5mm六角で外部から簡単に調整可能なリーチアジャストが備わる。
更にフード自体のラバーのテクスチャーにも手間が掛かっており握り心地と滑りにくさが追求されているという。


リアディレーラーは、従来モデルの欠点は特にプーリーが静かだったとは言えなかった事だ。やはりSRAMもそこは解っていたのだろう。プーリーの形状は完全にアップデートしてかつて無い静粛さと謳っている。ベアリングはもちろんセラミック。
正確な動きに関しては従来の物でも不満は無かったが、プーリーケージの形状変更やワイヤールーティングの変更で変速スピードと正確さをアップさせているという。ただし、アメリカの会社にありがちな〇〇%向上という具体的な数値が挙げられてない以上、言う程変速性能が向上しているかどうかは疑問だが、乗ってみるまでは解らない。
形状のアップデートで最大28Tまで対応している点は、シクロクロス用途などを考えると嬉しい変更だ。
中空チタン固定ボルトなどを採用して軽量化に務めている所はいかにもREDらしい。


フロントディレーラーは劇的に違う。先代はチタンケージの剛性が弱く、特にアップシフトに関して強いトルクが加わった状態で変速すると無理な変速感が出たり、純正チェーンが切れてみたりというトラブルも出た(通常の用途では全く問題はなかった。)りもしたし、プロチームでは人によってはスチールケージのFORCEに変更していたり、近年ではREDの型を使った特注のスチールケージを殆どの選手が採用していた。更には、最終型ではスチールケージのフロントディレーラーがプロエディションとしてカタログラインナップされていたりもした。その辺りを踏まえたらしく、新型ではスチール+アルミのハイブリッド構造を採用してきた。なので、重量自体は先代よりもむしろ重くなって74g。そこには、SRAMの執念が感じられるのである。

苦節20年以上。常にシマノに後塵を拝していたSRAMが、歴史的発明を成し遂げたと言ったら言い過ぎか?少なくとも軽量化以外のREDの目玉はコレだろう。「YAW TECHNOLOGY」だ。
3Dシェイプのボディ・リンク・ケージによってケージが動くに連れて、チェーンに対して最適なアングルに角度を変えて変速を促す構造だ。
フロントディレーラー周りでは多数の特許をシマノに抑えられているSRAMが、20年以上掛かって編み出したシンプルかつ複雑な解決法と言える。副産物としてトリム操作が不要になっている。
乗っていないので何とも言えないが、期待をしても間違いないだろう。
まさかのチェーン落ちを予防する純正インテグレーテッドチェーンキャッチャーも用意されている。


クランクセットのポイントは軽量化と高剛性。中空カーボンのクランク一体型スパイダーアームを採用し、アルミ削り出しのチェーンリングと組み合わされる。カーボンやチタンのスピンドル採用や新規格こそ存在しないが、53Tチェーンリング付きの仕様で557gと驚く程軽い。軽い上にSRAM曰くSRAM最強の剛性。実はREDはクランクの剛性はともかくチェーンリングの裏が削り過ぎで、チェーンリング剛性がちょっとという選手が存在したのも事実だが、今度のクランクは形状を見るからに期待出来そうだ。
ちなみに、チェーンリングはフロントディレーラーの「YAW TECHNOLOGY」に最適化された専用の物。

また、パワーメーター内蔵クランクセットもラインナップされる。SRAMが一昨年買収したQUARQ製のものを搭載するが、システム自体は従来のQUARQからアップデートされた製品だ。フレーム形状によっては装着出来ないと言ったトラブルに対応している上に、ANT+ IDが採用されペアリングが容易になっている。


ブレーキはもう一つの目玉であり、気になる点でもある。テコの原理で制動力を大幅に向上させるデュアルピボット構造が廃止され、シングルピボット構造となっている。カンパニョーロは2011SUPER RECORDで、リアのみシングルピボット仕様をラインナップしたが、REDの場合は前後ともシングルピボットだ。どのブレーキにしてもキャリパーブレーキはある意味単純にテコの原理で制動しているだけなので、仮想アームを延ばすか、ブレーキレバー側のレバー比を工夫するかのどちらかしか劇的に制動力を向上する仕組みはなさそうだが、SRAMではレバーではなくキャリパーに「AeroLink」というリンクを追加してきた。これにより、軽量化と同時に制動力を確保し、更にキャリパーの大幅なコンパクト化を実現して「ブレーキをかけていない時にブレーキにならないようにした」と謳う。
空力性能は、フロントブレーキに関しては確かに重要な部品なので一定の効果(体感出来るかというと恐らく出来ない)は期待出来るだろう。一方で、キャリパーにリンクを追加した事で、左右のブレーキ力の均整化は取れているのか?レバータッチが悪くなっていないのか?など、疑問点はあるが、これは乗ってみるまで結論は出せない。


カセットスプロケットに関しては、先代REDでは世界をアッと言わせた実績がある。超硬スチールの固まりからCNCマシニングで削り出して磨き上げたスプロケットは、スチール製なのにライバルのチタン採用スプロケットより大幅に軽量な重量を実現していた。
機械エンジニアに言わせると「どう考えても最後の仕上げは手作業。日本でこれを作ったら幾ら掛かるのだろうか?」と言わせる程手間の掛かった品であったが、新型でもコレは完全踏襲。安易にコスト削減に走らなかった所は拍手喝采に値する。
また、ギアとギアの間には、チェーンノイズを低減させるエラストマー樹脂が配置され、かつて無い静粛性を実現したという。考え方としては、チェーンに力の掛からない下側ではエラストマーにチェーンを接触させてチェーンノイズを吸収し、トルクの掛かる上側ではスプロケットにチェーンを接触させるという仕組みで、やはり従来不評だったリアメカ周りからのノイズに対応したアップデートだ。
ローギアは従来は一体型スチールであったが新型ではアルミニウム製ギアとなっている。今回の発表では11-23Tのみが発表されているが、アルミニウムギアの採用からラインナップの拡大も期待出来る。
20年前のスプロケットと比較しても仕方ないが、7410デュラエースのカセットスプロケットは、チタンギアやアルミニウムスパイダーが採用される前のものだったのでオールスチールで301gだった。ロー側にアルミニウムギアが採用されるとはいえ、8速対10速なのにXG1090は135gである。


チェーンはPC 1091Rが継続してREDシリーズとしてラインナップされる。従来の1091に比べて中空ピンの採用で255gとKMC並みに軽量な重量を実現している上に、強化リベット構造で千切れにくさを大幅に向上しているという。コネクティングピン要らずのPOWERLOCK構造も継続して採用される。
プレート構造は変速性能と静粛性の向上を狙った形状。従来のコンポーネントとも互換性はあるので、多くは語らないが1091チェーンはもはやお役御免と言った所だろう。

このように、NEW REDのモデルチェンジは強烈にSHIMANO DURA-ACEを意識したものでありつつREDらしさに磨きをかけた物だ。パッと見では軽量化に目が行ってしまいそうだが、よくよく見てみると変速性能向上と静粛性の為に明らかに軽量化とは相反する部品や構造を採用しており、その変速性能、変速タッチが大きく気になると言える。エルゴノミクス性能は見るからに安心出来そうだが、最大の懸念点はブレーキである。これに関してはやはり乗ってみないと何とも言えないが、海外メディアでは油圧ブレーキとディスクブレーキの存在を報じて居る所も既にある。SRAM PRマネージャー氏にこの件に関しては公式見解の質問状を送付済みなので続報を待たれたい。
どちらにしても、SHIMANOは機械式DURA-ACEに関しては、いよいよもって王手をかけられたという状態である事は間違いないだろう。さて、次の一手はあるのだろうか?
 
 

report:Kenji Nanba
photo:SRAM
date:2012.2.1