TREKが新型ロードバイクを発表。その名はDOMANE

TREKがかねてより噂されていた新型ロードバイクを発表した。その名はDOMANE(ドマーネ)だ。ワンデーレースのスペシャリストで元世界チャンピオンのファビアン・カンチェラーラの要望に沿って開発されたクラシックレースに勝つためのロードバイクとされる。名称の由来はカンチェラーラの栄光から由来するラテン語の「王冠」を意味する単語、つまりDOMANE。

アメリカを代表する2ブランド、TREKとSPECIALIZED。この2社は一眼レフカメラで言う所のCANONとNIKONの様に業界に大きく君臨しているが、カメラのそれと同じようにスペックでは直接競合しないモデルをラインナップする事でも知られる。(カメラの世界ではCANONとNIKONは、スペックで直接競合するモデルは滅多に出さない。)例えば、TREKの主力ロードバイクMadoneはオールラウンドな性能が特徴だが、SpecializedではTarmacはスプリント性能、VENGEではエアロ性能に振る事で直接の競合を避けているし、同じくTTバイクのSPEED CONCEPTでは史上最高の空力性能を謳うが、SHIVはハイドレーションとFITを同時に全面に押し出す事で直接的に重なるマーケットでありつつも微妙に違うスタンスで戦っている。

ところが、ドマーネはPave仕様のレースバイクと謳っている。Paveといえばパリルーベ。パリルーベと言えばSpecialized Roubaix SL3だ。要するに、久しぶりに直接ガチンコの対決にTREKが打って出たのである。それ程に世界的にこのカテゴリー、つまり振動吸収性に優れた上で軽量で良く走るバイクの需要が増えていると言う事だろう。

確かにかつて、5、6年以上前のコンフォート系ロードバイクは乗り心地は良いけど進まない、走りもハンドリングもモッサリ。というモノが多かった。初代の頃のRoubaixにしてもそうだし、実のTREKもPILOTというモデルでこのカテゴリーに参戦した事があるが僅か一年で撤退してしまった。一方で現行ラインナップのSpecialized RoubaixやCannondale Synapseは本当に驚く程良く走る上に快適性も高い。

PILOTの戦略上の失敗もあったりして登場したのが先代のMadone。当時の最新のテクノロジーで軽量化を押し進め、剛性を維持しながらシートマスト構造などにより快適性やエアロ性能も大幅に増した事により世界的にスマッシュヒットとなった。現行のMadone 6もこれを踏襲するものだったが、その登場から3年、進化したカーボンテクノロジーを快適性、パワー伝達性に特化して注力した新モデルがDOMANEである。DOMANEが従来と異なるのは、これはバリバリのレーシングバイクで、勝てる性能を持ちながら快適性を高めたのではなく、「勝つためにパワー伝達性能と快適性を高めたバイク」と言う事である。

ではDOMANEはどのようなテクノロジーを採用しているのだろうか?大きく分けると3つだ。IsoSpeedと名付けられた振動吸収機構、パワートランスファーコンストラクションと言うパワー伝達構造、そして長時間のライディング用に新設計されたエンデュランスジオメトリーだ。
一日の走行距離が250kmを超える事もある過酷なクラシックレース。そのレースを勝つ為につくられたDOMANEは、IsoSpeedにより石畳の衝撃を吸収し、パワートランスファーコンストラクションにより最大限の伝達効率を手に入れ、長距離向けのエンデュランスジオメトリーにより長時間のライディングでも疲労が体に溜まらない仕様としている。


まず注目のIsoSpeedだが、シートチューブを他のフレームから完全に独立させた上で、ベアリング内蔵のジョイントによって結合する事でシートチューブ全体を大きくしならせる事でサドル上の快適性を大きく向上させる仕組みだ。実験値では、従来比で2倍以上の振動吸収性を実現していると言う。これにより、長時間の荒れた路面でも綺麗なペダリングを持続出来、体に疲労を蓄積しないという。シートチューブ自体をチューブ型サスペンションとして使う革新的なアイデアであると言える。

当然、シートチューブの快適性だけを上げても意味が無いので、フォークにも工夫が施されている。優れたハンドリングで知られる現行Madoneの設計を踏襲しながら快適性を高めたIsoSpeedフォークは、マドン同様に前後非対称のステアリングチューブを採用したテーパードヘッドE2を採用し、同時にフォークのレイクを若干大きくしつつ、フォークのカーブが大きく取った振動吸収性に工夫した仕様となっている。一方でハンドリングに影響させない為にネガティブオフセットのドロップエンドを採用するなど最大限の配慮がなされている。

パワートランスファーコンストラクションについては、入力されたパワーを推進力に最大限に変換するためのフレーム構造だ。推進力を得る為にトレックが注目したのがダウンチューブ。ここの剛性を如何に保ってリアエンドにペダリングパワーを持って行くかが問題で、既存のBB規格の中で最もワイドなBB90とE2ヘッドチューブの間をつなぐ大径ダウンチューブの構造解析に3年の時間を費やしたという。

シートチューブ自体を快適性にさいている事で、バイクの走りをグタグタにしてしまわない為にダウンチューブの設計に最新の注意を払ったとも言えるが、逆に考えれば偶然にもワイド幅のBB90を既に開発していた事がこの大胆な設計を可能にしたとも言えるだろう。

最後がエンデュランスジオメトリー。スプリントパワーを受け止める走りを実現しつつ快適性を保つ為には、チューブに衝撃吸収剤を内蔵したりスプリング構造を取ったりするのでは足りないと考えたのかどうかはしらないが、DOMANEでは約1cm長いチェーンステー(52cmサイズで42omm)を採用した新設計のジオメトリー(Madone H1FIT比でBBドロップは1cm大きくなっている上に、ホイールベースは3cm伸びている)を採用して来た。フロントフォーク、シートには革新的なアイデアで衝撃吸収性を持たせたが、最大の問題となるペダルへの衝撃の伝達も考えた結果だろう。

理屈で考えるとチェーンステーを長くする事で勿論衝撃吸収性は高くなるし一体成型とみられるリアエンドによりリア剛性を保ちつつ、IsoSpeedによりフレーム全体がフレーム剛性を保ちながらサスペンションとして機能するだろう。一方で、ジオメトリーはロードバイクの基本であり、ハンドリングの要だが、ジオメトリーには定評のあるトレックがここにメスを入れて来た事には驚きを隠せない。果たして伸びたホイールベースをどのように走りに落とし込んでいるのだろうか?

現時点ではDOMANE 6seriesが発表されたのみで詳細なファミリー全貌は明らかになっていないが、DOMANE6以外にも普及価格帯のモデルもラインナップされると思われる。DOMANE6のフレーム重量は、56cmで公称1050g。MADONEが800g中盤である事を考えると200g程重くなっているが、それでも競合のPave系ロードバイクのフラッグシップモデルの平均からすると軽い部類に入る。

また、海外ソースではDOMANEはMADONEの後継機種であると長らく報道されていたが、この構造を見るとDOMANEはMADONEの性能を踏襲しながら長距離や悪舗装向けに振ったモデルでありMADONE後継機種(もしくはニューMADONE)は別にあると思われる。今回のバイクの主役がカンチェラーラと言う事は、次はシュレク兄弟である。シュレクと言えばヒルクライム。ということは・・。

DOMANEの詳しい性能は乗るまで解らないが、ファビアン・カンチェラーラはこのバイクに乗って絶賛したという。カンチェラーラがべた褒めするのは当たり前として、TREKの内部の既にこのバイクに乗った信頼出来る筋の話だと、実際に相当に良いらしい。実は、トレックのロードラインナップは、現行のマドン6とスピードコンセプトを企画したタイラー・ピルガーから新しいプロダクトマネージャーへとバトンタッチしている。このDOMANEでお手並み拝見させて頂きたい所だ。
 
 

report:Kenji Nanba
photo,CG:TREK USA
date:12.3.30