Specialized SHIVはアイアンマンに使えるか?SHIVをショートインプレ

Specialized SHIVはそもそもUCIタイムトライアルレースの為に作られたいわゆるTTバイク(正式名称はSHIV TT)であったが、昨年秋に兄弟モデルとしてUCI規定も無視したトライアスロン専用モデルが追加された。兄弟モデルとは言うものの、似て異なる用途のモデルのため、トライアスロン用のSHIV(こっちの正式名称は単にSHIV)は、各部をトライアスロン、その中でもいわゆるアイアンマンディスタンスのために再設計したバイクであり、名前は似ているがモノとしてはまったく異なる。

もう今更説明するまでもないだろうが、SHIVのコンセプトは「AERO、FUEL、FIT」で空力効果と、フレーム内臓の水分補給システム、そしてフィッティング性能を煮詰めた仕様となっている。最近CERVELOからP5が発表されたが去年までのフラッグシップP4のご自慢であった内臓ハイドレーションシステムと、TREKのSPEED CONCEPTのフィッティング性能を研究し尽くして、更にSHIV TTでは規制のため実現出来なかった空力性能を追求したモデルであり、後発ならではの考え抜かれた仕様と言える。

今回はあらかじめ用意された車両(フラッグシップのS-WORKS SHIV Di2完成車)での試乗だった為、フィッティング性能に関しては自分のポジションを出して試す事は出来なかったが、ハンドル周りのブロックを取り外したり付け替えたりする事で自由に設定出来るフィッティングの幅広さは間違い無しにトップレベルの可変性。SPEED CONCEPTも同じようにブロックを入れ替えて幅広いフィッティングが可能だが、ステムは専用品でブルホーンの位置を出さなければならない為、ステム内でブルホーンバーの位置を調整出来る(写真を参照)SHIVの方が一枚上手と言える。

適当な位置でDHバーに肘を置いて踏み始めてみると、流石にアイアンマン専用品ですねと言えるBB位置やジオメトリー。DHバーの位置は合っていないけど、乗った瞬間からしっくりくる。特に白眉なのが標準でスペックオンされるROMIN EVOサドル。これはもう個人的にも1個買う事がものの数分乗っただけで決定してしまった。前傾ポジションを長時間取ると腰やら背筋やらが辛いのは当たり前なのだけど、それより辛いのが股間の圧迫感。ところがROMIN EVOは全然痛くないというか圧迫感が無い。さすがBGサドル。目から鱗。アイアンマンでサドルに悩んでいる人は、コレを試してみるべきである。

踏み出すと意外に軽いバイクである事が解る。ダンシングしてもヒラヒラとロードバイクの様に坂を登って行くが、ゴチッと固い岩の様な踏み味とは違って、薄くて大きな固い箱を踏んでいる様な印象。アイアンマンと言えども、コースによっては180kmで1,000mを大きく超える標高差があるし、そもそも毎年ハワイのコナで開催される世界選手権のコース自体が緩やかなアップダウンを延々と繰り返すコース故に、ある程度登りの事も設計時点から織り込み済みなのだろう。

一方で巡航に入ると「風、切ってます」という感じが如実に感じられる。エアロの数値云々は調べていないが、Specializedも1:3のUCI規定ダウンチューブを無視して、シートステーを極限まで下げたりして空力の為に色々頑張ったとオフィシャル資料に書いてある通り、空力性能は文句ない。特に直進性能はずば抜けて高い。

また、DHバーに乗った状態で意外に大事なのが、フォークの剛性と衝撃のいなし方、そしてヘッド周りの剛性。何故かと言うと路面の凸凹や段差、落下物に遭遇したりと、炎天下の意識朦朧としたなかで延々とDHバーに乗っていると色々と想定外の事があるが、この時に咄嗟に直前で避けれるか、もしくは侵入してしまってもDHポジションのまま何事も無く体勢を立て直せるかが重要になってくるためだ。
この辺りの設計がSHIVは絶妙。ウォーターボトルをダウンチューブに内臓しているデメリットはどこにも無い。ヘッド周りの剛性は普通のロードバイクと同じ形式のシングルコラムの為申し分ないし、若干寝ているヘッドチューブアングルによってピーキーでもなくダルでもないDHバーの上から絶妙にコントロール出来るハンドリングを実現している。


もちろん所謂走りの剛性感、踏み味についてはS-WORKSである。ハズレである筈も無く、アイアンマンというカテゴリーにドンピシャの固すぎない剛性感かつ、いかにも良いカーボン使ってますというパキッと乾いた踏み味がフラッグシップの何たるかを乗りながらにして教えられる。一方で驚きだったのが、所謂乗り心地だ。フレーム、フォークともに振ったときの剛性は高いのだが、Tarmac SL2辺りからSpecializedが培って来た、弓なりの形状のトップチューブで上手く衝撃を逃がして体に伝えない設計がSHIVにも活きている。正直言って、今まで乗ったTT(トライアスロン)バイクの中で一番乗り心地が良い。


注目のハイドレーション機能だが、今回は実走しながら飲んだりといったテストは出来なかったので多くは書けないが、アイアンマンの実戦を考えたときのアイデアとしては確かに良い。もちろんCervelo P4を使うユーザーの声を聞いた上での開発であろうから、悪い筈も無く、また、エイドで受け取ったボトルからハイドレーションバッグに水を入れるという流れについても慣れると恐らく十分に実用的だ。
実用的と言うとブレーキの外装についてもそうだ。内装ブレーキは空力に優れ見た目も美しいが、実際に個人で飛行機を使って遠征するとなるとバラして組んで調整してという一連の作業を全部自分で行わなければならない為、実用上問題があるのか無いのかで言うと正直言ってメカが得意でも「問題ある」と答えざるを得ない。その点、SHIVは潔く、変速ケーブル類も無理矢理カウルの下に収めておらず潔い。本当に美しい自転車を探している人には、ちょっと引っかかるポイントかもしれないがレースの道具、遠征の機材としてバイクを選ぶのであれば、まさに実用的だ。ちなみに自社モノのブレーキはTTバイクとしては非常に良く効く。

普通、180km、DHポジションのままで走れますか?と聞かれると普通のTTバイクなら「うーん・・・」と答える所だが、収まりの良さと快適性からSHIVならイケる気がする。床の間スペックのコレクターズバイクではないが、実際にアイアンマンを転戦していて、タイムを出すためのバイクを探している人なら候補に入れるべき一台である事は間違いない。
 
 

report: Kenji Nanba
photo: Kenji Nanba
date:12.3.30