TREK Session 9.9に乗る


TREK SESSIONのインプレッションであるが昨今のダウンヒルを考えるに読者の大半はダウンヒルバイクにまたがった事がないと思われるので、エリート・エキスパートの人向けというより、ファーストタイマー向けにSESSIONを考えてみる事にする。

サイクリングというのは機材スポーツであるが、その中でも機材への依存度が圧倒的に高いのは間違いなくダウンヒルであろう。例えば、私が現世最速のTTバイクに乗って8万円のロードバイクに乗るカンチェラーラ氏とタイムトライアルで勝負しても勝負にならないだろうし、同じく現世最強のクロスカントリーバイクに乗っても5万円のスペシャライズドに乗るクルハヴィ氏には間違っても勝てない事が走る前から解っている。

ところがダウンヒルバイクは違うのだ。一度でもダウンヒルバイクに乗った事のある人なら解るであろう、その性能。直線基調で上下方向にデコボコのあるのダウンヒル、解り易い表現で言うと例えば富士見Aコースのゴンドラ下の直線なら、DHレーサーに乗ればフルリジッドで非DHタイヤを履いたワールドカッパーに恐らく勝てる。もちろんコーナリングやシングルトラックの走りが入ってくると負けてしまうのは言うまでもないし、それは軽トラに乗ったシューマッハにランエボに乗って直線で勝ったとでも言うべき愚行だが、少なくとも全方位で勝ち目の無い他の自転車スポーツに比べてダウンヒルの機材依存度がかなり高いのは事実。

そのように機材依存度の高いダウンヒルでありながら、多くのブランドが、まったく異なる最新機材を投入して凌ぎを削るワールドカップ・ダウンヒルの世界では1秒、時にはコンマ1秒の争いが繰り広げられている。要するに頂点の世界では機材も大事だがもちろん主役はライダーという事だ。とはいえワールドカップの実戦で走る最新ダウンヒルバイクがどんなものなのか気になったので今回試乗してみたのがTREK初のフルカーボンDHバイク、Session 9.9。

OCLV MOUNTAINを採用しフレーム単体で従来より900g軽くなった(最新のロードバイクのフレーム重量自体よりも軽い!)とか、アーロン・グウィンがワールドカップの実戦に投入していきなり優勝したとか、ウンチクを語り出したらキリが無いが問題は乗ってどうかである。今回は富士見パノラマのAコースで試したが、一言で表すならSessionは「楽」だ。速いバイクは速いだけの苦行マシンではなく、数分間の精神的にも肉体的にも限界の走行を強いられるDHに適応して進化した最新のバイクは昔と違って楽なのだ。

まず、こぎも軽いし重量も軽い。テストしたのは北米スペックの完成車だが、フル装備で16kg程度の車重は一昔前の150mmクラスのオールマウンテンに2kg程足しただけの重量でありながら、リアトラベル210mmのフルスペックDHバイク。登り返しやペダリングの必要なセクションでバイクが軽いと驚く程に進む。今現在私が乗っているDHバイク(それでも3年程前にはワールドカップで活躍していたモデル)は20kg弱なので3kg程軽いのだが、体感上はそれ以上に軽く感じる。

また、白眉はリアサスペンションリンクのABPシステム。リアの稼働ピボットをハブと同軸にする事でブレーキを掛けてもサスペンションの動きを邪魔しないシステムだが、これがまた驚く程に「楽」。洗濯板のような直線から、コーナリング中のデコボコまで、見事にブレーキでスピードコントロールしていてもサスペンションが動き続けてくれるので、ふくらはぎに力を入れてバイクを抑え込む作業が不要と言っても良く、富士見Aを1本下っても全然足に来ない。エリートレーサーの世界では、それは究極の路面追従性とブレーキ性能となって効果を発揮するのだろうが、一般ライダーに感じられる効果は、むしろそれよりも足に来ない、かつ想像よりもブレーキの限界が奥にあるので安全。

語り出すときりがない程にカーボンテクノロジーが搭載されているが、特にフォーム材とカーボンを複数の積層でサンドイッチして剛性を高めたINTENSIONテクノロジーの効果あってか、フレームの中心部やヘッド周りの剛性はすこぶる高いというか非常に硬い。一方で、トップチューブ、ダウンチューブのチューブ部分は高速になればなるほどカーボンだなぁという微振動吸収性をみせてくれつつ、ちゃんと芯のある硬さを出しているのは流石にトレック肝入りのカーボンフレームである。ちなみにMadone 7より一足先に色々と最新のカーボンテクノロジーが採用されたのは、やはり北米と欧州でのDH人気を反映しての事だろう。

ワールドカップで戦うために作られたバイクなので、本来はワールドカップレベルの走りをしてこそ本領が発揮される訳だが、残念ながらそのスピード走る事は出来ない。とはいえその性能の片鱗は、乗れば誰でも垣間見る事が出来る。また、実は初・中級者こそSessionに乗れば安全かつ楽でスムーズにダウンヒルする事が出来るとも言える非常に懐の深いバイクであるのも事実だ。

ハッキリ言って、ちょっとダウンヒルするかで買える程安い金額ではないが、初心者の最初の1台にSessionカーボンは悪い選択肢ではない。少なくとも、ちょっとトライアスロンやりたいんですけどでSPEED CONCEPT9を買おうとしている人が居たら私は止めるが、Sessionについては余裕があるならどうぞと言った感じ。ちなみに万が一転倒でフレームが折れても大丈夫、TREKなので最初のオーナーならクラッシュリプレイスメント(破損時に安く新品に交換してくれる制度)が使える筈だ。
 
 

report:Kenji Nanba
photo:The Bike Journal
date:12.8.28