イヴァン・バッソに聞く、欧州プロ選手の食事

欧州グランツールで活躍するプロ選手は、何を食べ、どのようにパワーメーターを使いこなして、どうやってポジションを出しているのか?この質問に答えてもらうためにTHE BIKE JOURNALがお願いしたのが、ジロ・デ・イタリアを2度制したイタリアの国民的英雄、イヴァン・バッソと今期のツール・ド・フランスでグリーンジャージを穫ったペテル・サガン。
与えられたインタビュー時間30分の中で聞ける事を聞き出した第1回は、「イヴァン・バッソの食」をお届けします。


難波ー はじめまして。来日は何度目ですか?

Ivan Bassoー 確か5度目だと思う。最初に来たのは96年だったかな?アマチュア時代でイタリアナショナルチームとしてツアー・オブ・ジャパンに参戦した。もうあれから16年になるんだね。

難波ー 16年前と比べて、日本のサイクリング事情は大きく変わりましたがそれは実感しますか?

Ivan Bassoー サイクリングファンが爆発的に増えているのは感じるね。あと、日本人選手が欧州で活躍しているのも知っているし、ジャパンカップを走っても日本の選手のレベルが上がっているのは解る。

そこに僕ら、欧州プロがやって来て、日本の選手とレースをやってファンに見せるというのは、日本のサイクリングの為に重要な事だと解っているからこうして日本にやってきた。サイクリング文化は、イタリア、フランス、ドイツだけのものでも、アメリカ、ヨーロッパだけのものでもない。

難波ー 4度目の参戦で、ジャパンカップに勝利出来た。その事について少し聞けますか?

Ivan Bassoー あのレースが、私がリクイガス・キャノンデールとして走る最後のUCIレースだった。1月1日からはキャノンデール・プロサイクリングチームになるからだ。リクイガスと一緒にやって来た4年間の最後のレースでスプリントで勝てた事はドラマチックだし、本当に嬉しいよ。

金曜日から月曜日まで、宇都宮で起きている事は本当に熱狂的だ。金曜日に到着すると多くのファンに囲まれて、朝ホテルを出るとファンが居て、練習から戻って来てもまた居る。(イタリアから)遠く離れた日本にこれほど熱狂的なファンがいてくれる事自体が驚きだし、そのファンの前で最高の走りを見せられる事がプロとしてとても幸せだ。

難波ー では、サガン選手、今シーズンの結果についてご自身の印象を聞かせてください。

Peter Saganー 春先からコンディションを上げて目標にしていたクラシックレースで活躍出来、その後リコンディションを行ってツール・ド・フランスでステージ3勝、グリーンジャージを着る事が出来た。

ツールが終わって調子を落としたが、世界選手権に向けてもう一度コンディションを整えて臨んだ。結果はついてこなかったけど、感触は悪くなかった。

アスリートとして、1シーズンにピークを持って来れるのは2度だと思う。なので今シーズンは春先、そしてツールと2度ピークを持って来れたし結果もついて来たので、とても嬉しく思うよ。来シーズンは、まずは春先にカラダを仕上げてクラシックレースを狙って行きたい。自分としては、計画通りのシーズンだったと思う。

難波ー サガン選手を始め若いライダーが台頭し始めていますが、それについてバッソ選手の印象を聞かせてください。

Ivan Bassoー 気持ちは俺も若いつもりだよ。(笑)隣の彼(サガンの事)は若いが、イタリア人選手で言えば、サガンより下の年齢層で実は若くて才能のある選手が今沢山揃っているんだ。他の国のユース事情についてはそんなに詳しくないが、イタリアだけに限って言えば本当に数が揃っている。特にキャノンデールのユースチームには5、6人才能のある選手が揃っている。彼らの将来については私自身、本当に期待しているよ。

難波ー キャノンデール・プロ・サイクリングチームが発表された時点でプレス向けの発表文に、イヴァン・バッソは、ベテランとして若手の育成に力を入れる。とコメントが書かれていました。あれは、バッソ選手の言葉なのでしょうか?それともチーム監督の言葉なのでしょうか?

Ivan Bassoー 私自身の言葉だ。自身としての成績を追い求めるのは言うまでもないが、そのためにチームの若い選手を育てて行く事が必要だと思っている。ロードレースは個人ではなくチームスポーツだから。

そのために、過去の5、6年に渡って、チーム自体がイタリア各地の小さなレース、ユースカテゴリーのレースを廻って若いタレントを発掘してきたし私自身も発掘してきた。そうして発掘して来て、育てた選手の1人がサガンだ。

サガン、ビビアーニを筆頭にこうしてメイドinリクイガス(キャノンデール)の選手を育てて来たし、これからも若い選手を監督としてではなく選手同士として指導して育てて行きたい。そういう思いを表したコメントだ。

難波ー では、本題を聞かせてください。日本の一般的なサイクリストが想像する欧州のステレオタイプなプロ選手の像というのは、「塩ゆでのプレーンパスタ」を毎日食べ続け、揚げ物や脂肪分の多い食べ物を食べない徹底的な節制を行っていると想像している人が多いです。
私自身、先のツール・ド・フランスの開幕直前にRADIOSHACK NISSANチームに帯同して彼らの直前の過ごし方を数日間同じホテルで過ごして見ていたのですが、その食事は確かに管理して選んだ食材を食べているという印象を持ちました。

とはいえ、ツールのような超重要レース直前、期間中は除いた日常ではどのようなものをバッソ選手は食べているのでしょうか?

Ivan Bassoー ふむ。私自身の話をしよう。プロフェッショナルのロード選手というのは、常に節制を心がけたライトミールに注意するべきだ。最も重要なのは、添加物を中に入れ過ぎない。調味料やソースの類いには特に注意をしている。なので、基本的に塩ゆでのプレーンパスタにオリーブオイルを絡ませたものが中心的な食事になっているというのは当たっている。肉、魚についても添加物を入れないプレーンな状態、魚も生の状態などが好ましい。

プレーンで添加物の入っていない食事と言う意味では、その環境(刺身やうどん、そうめんなどの事)が日本食には整っているので、私の国から見ると非常に(アスリートにとって)好ましい環境だと思う。

スキニーである事はロードレースにとって最も重要な項目のひとつである。
(といって、顔をサガンに振り、君はもうちょっと痩せないとだめだよと言いたげなバッソ。何か言いたげだが言えないという表情をバッソに見えないようにジェスチャーするサガン。)

そのために私が心がけている事を紹介しておこう。まずプロフェッショナルとして生活していると転戦を重ね、ホテルのレストランなどで食事する事もどうしても多くなる。その時の食事については非常に気を使っていて、レストランで添加物、具の入ったパスタをオーダーする事はまずない。レストランでは塩ゆでのパスタを注文し、それに自分で持ち込んだチーズやオリーブオイルなどを組み合わせて食べている。

難波ー つまりこれを毎日食べていると。(自宅にあったDELVERDEの食べかけのパスタを持って来ていたものをバッソに見せる)

Peter Saganー ああ、僕たちのスポンサーじゃないか。笑

Ivan Bassoー DELVERDEのパスタは最高だ。良く持って来てくれた。是非一枚それと一緒に写真を撮ってくれ。笑

難波ー オフシーズンとオンシーズンでは食事は変わってくるのでしょうか?オフシーズンもオリーブオイルパスタ?

Ivan Bassoー もちろん変わってくる。食事の時にビールやワインを飲んだり、1枚ピザを追加する事はあるし、マクドナルドのようなファストフードに行く事もある。ただし、そのような期間はもの凄く短いし、いわゆる普通の人が食べているような料理やファストフードを食べる事は3回から5回だ。

難波ー 週ですか?月ですか?

Ivan Bassoー 年間だ。アルコールもプロフェッショナルとして過ごすのであれば、ハメを外して飲んで許されるのは年間3回まで。それもオフシーズンに限る。

難波ー サガン選手も?

Peter Saganー イ、イ、イエス!もちろん!5回まで!(一同爆笑)

難波ー そこまで冬でも節制する理由は何なのですか?

Ivan Bassoー ロードレースには1つの法則がある。悪い冬を過ごすと、待っているのは悪いシーズンだ。オフシーズンはレースがオフなだけであって、プロフェッショナルとしてオフになる事を意味する訳ではない。(再度、サガンに目を送るバッソ、わかりました!と言いたげな表情のサガン)

難波ー 最近、ロードレースと同じ持久系のマラソン、XCスキーのオリンピック代表の選手と会って話す事があったのですが、彼らは比較的、食事に関してはそこまで節制していないという印象を持ちました。バッソ選手の節制との違いはどこにあるのでしょう?

Ivan Bassoー まず、競技の違いもあるだろうし体質の違いもあるだろう。(マラソンやXCスキーに比べてロードレース選手が走るレース数は比較にならない程多い。)しかし、どの選手にとっても重要な事は食べ過ぎない事だ。長時間練習した日は私も食べるし、練習していない日は節制している。4,5kgの脂肪というのは食べる事によってすぐについてしまうが、これをレースコンディションの体脂肪率まで戻す事をトレーニング、コンディションとのバランスをとりながら行う事は簡単ではない。

サガン、私の言っている事が解るよな?
(注:サガン選手は、この前日にあったパーティーでハメを外してビールを飲んだため、インタビューの直前にバッソ選手から、プロ意識を持って節制するようにと指導を受けたという。)

Peter Saganー はい!3回まで!笑

Ivan Bassoー 彼は今22歳だが、今と同じ食事の取り方を25歳になって行ったら選手としてどうなるかはここに居る全員(イヴァン・バッソ、ペテル・サガン、パオロ・スロンゴ監督、Cannondale Pro Cyclingに移籍の決まった増田成幸、マッサーの中野喜文さん、TBJ難波、TBJ小笠原)が知っている筈だ。25歳を超えてからの1年1年を重ねるごとにプロフェッショナルのアスリートとして必要なシェイプを維持するのに求められる努力が年々厳しくなってくる。

難波ー 私もバッソ選手と近い年齢なので、仰る意味が十分すぎる程に解ります。

Ivan Bassoー 笑
とにかく、選手としてのパフォーマンスを向上させるのに必要なのはトレーニングだけでなく、食事、リラックス、リカバリー、そして睡眠が重要だ。これはプロでもアマチュアでも同じ事だろう。

小笠原ー 次の質問は私からさせてください。パワートレーニングとポジションについて。

vol.2 イヴァン・バッソに聞くパワートレーニングに続く
 
 

interview:Kenji Nanba、Takahiro Ogasawara(小笠原崇裕)
photo:The Bike Journal
協力:中野喜文さん、Liquigas Cannondaleチーム
date:12.12.17