イヴァン・バッソ、ペテル・サガンのインタビューを終えて
まだ本特集をお読みでない方はイヴァン・バッソに聞く、欧州プロ選手の食事からお読みください。

イタリアと言えばサイクリングスポーツの本家本流(フランスが本家だという議論は置いておいて)であって、自転車競技が参加型スポーツとしても観戦型スポーツとしても広く市民に親しまれており、その中でジロを2回制したイヴァン・バッソと言えば問答無用の国民的英雄。
国民的スポーツで自国のベテランがインタビューと言えば、日本で言えばイチロー(ヤンキース)かダルビッシュ(レンジャース)が、7000km離れた良く解らない国の弱小メディアに独占インタビューされたぐらいの出来事だ。
断られるのを前提でオファーを入れてみたが、スムーズに受け入れてくれたLiquigas Cannondaleチーム、そしてCannondaleジャパン、当日イタリア語の通訳をつとめてくださった世界的に有名なマッサーの中野喜文さんにまず感謝を述べたい。

その上で、THE BIKE JOURNALとして何が聞けるかを考えて聞いてみたのが今回の質問。予想通りだった答えもあれば、真逆だった答えもあった。例えば食事の話については、バッソ選手から「ある程度気にはしていますが、実際のところそんなに気にしてませんよ」ぐらいの話が出てくると想像していたが、その答えは想像を超えたプロフェッショナル意識であった。

一方でペテル・サガンについてはまだ22歳という事もあって、好き勝手にやっていますよという雰囲気がインタビュー中のバッソとサガンのやりとりから感じられた。サガン自身の話や、バッソのパワートレーニング、ポジショニングの話についてはもっと突っ込んで聞いて行きたかったというのが正直な所だが、与えられたインタビュー時間は30分丁度だったので時間の中で聞ける事を精一杯聞いたつもりだ。

パワートレーニング、ポジションニング、MTBの話、どれかを省いてどれかを突っ込んで聞く事も考えたが、2名の選手がTHE BIKE JOURNALに独占で答えてくれると言う千載一遇のチャンスであったので、一言だけでも聞いておく必要がある(聞かずにバッソのポジショニングを語るのは単なる妄想だが、一言でも本人の意見を本人の声で聞いたというは大きく違う。)と思い質問項目を全部聞く事にした。
食事の話と後半の話の突っ込み具合が大きく異なるのは政治的な意図などは何もなく、食事の話を最初に聞いたので単純に時間が押してしまったというのが理由。

インタビューを全体を通して見えて来たのは、バッソ自身のプロフェッショナリズムと自身の感覚を最優先するという考え方だ。伝統的なサイクリング強国だけに既に現役を引退した選手やコーチが小さい頃から周りに沢山居て、それらの人達に学んで来たと言う事が大きく影響していると思われる。

イギリスや、ドイツ、アメリカのような比較的サイクリング競技(イギリスはサイクリング競技の始まった国であるが、最近まではサイクリングの大国ではなかった)の歴史が浅い国では、感覚値よりも科学的なトレーニングやフィッティングが最優先される傾向が強く、同じというかそれよりも遅れている日本でどうするべきなのかは、一概にバッソ選手の話を全部参考にして良いとは思えないが、少なくともバッソはこうしていると言う事を読み物として読んで頂くには読む価値のある話が聞けたのではないかと思う。

一般的なフィッティング、トレーニングに関しても、イタリアのような環境で育ってくると近所のおじさんの中に昔は競技で自転車に取り組んでいたという人達がゴロゴロ居る環境であり、ショップでも適切なフィッティング、トレーニングを指導出来るレベルを持っている店は多くないのが現状の日本とでは大きく異なる。スロンゴ監督の言っていた、「近くに基本を教えてくれる上級者が居なくて誰も教えてくれないというのであればコーチに頼むのも良い選択だが、同時に自分で考えて経験を積む事が重要だ。」という発言が日本人にとってのすべてを表しているのではないかと思う。野球もゴルフもそうだが、近所に手取り足取り教えてくれるおじさんが居ない場合はコーチについてフォームを習うのは1つの近道ではあるし、それをコーチに習うというサービスには対価が当然必要となるのも理解してほしい。
日本ではサイクルショップのスタッフか、そのショップに出入りするベテランライダーから基礎を教わる事がほとんどだろう。ここで気を付けたいのは、そのスタッフやベテランライダーがただの経験だけで教えているという事で、しっかりとした資格を持っていない事がほとんどだという事だ。
伝統的なサイクリング強国では、地元クラブのジュニアの育成をしている近所のおじさんでもコーチング論を学んでいたりと、経験と理論を熟知しての指導をしている。日本でも元プロ選手や、現役で走りながらコーチの資格(日本の場合は日本体育協会公認自転車コーチ、マウンテンバイク協会公認インストラクター等)を持った方から教えてもらう事がサイクリング強国のソレと同じ事と言えるだろう。プロは近所のベテランライダーではない。パワートレーニングについても概ね同じ事が言えるだろう。

Liquigas Cannondaleチームのメンバーと同じ時間を過ごしたのはこれで2度目だが、2度を通して見えて来たのは彼らのファミリー度合いだ。後輩を育てたいとプレスリリースに書いてしまうバッソの思いはほんの数十分一緒に過ごしただけでサガンへの思いやりから見て取れる。時に厳しい表情も見せながら、ファミリーの長男としてプロフェッショナルのあるべき姿を後輩に指導して行く。そこには母親役の監督が居て、ファミリーとして成長して行くのがLiquigasチームの姿。

サガンについてはそのルックスと怪童というあだ名から傍若無人な立ち振る舞いというイメージを持っている人もいるかもしれないが、実の本人はユーモアのある元気な若者という印象を持った。まだ、日本人にどうやって接したら良いのか解らないという感じだったので、本人に会う事がある人は是非スロバキア語と英語を勉強してアピールすると本人も笑顔で答えてくれるだろう。

いずれにしてもバッソとサガン。彼らのキャラクターと考え方も解った上で来シーズンのレースを見るとレースがもっと面白くなる事だろう。是非、1月1日に発足するCannondale Pro Cycling Teamの活躍に期待したい。
 
 

report:Kenji Nanba,小笠原崇裕 共著
photo:The Bike Journal
date:12.12.20