ファビアン・カンチェラーラのフランドル

「最高のチームワークが成せた完璧な勝利だった。スタートするまでは、モニュメントを戦うのに最高のチームではないと言われていたかもしれないが、結果として他のチームは敗れ、私達はこの冬の間、練り込んで来た理想的な展開にレースを持って行き、そして勝つ事が出来た。だからこのチームは最高だ。」ゴール後に行われた会見で、2度目のツール・デ・フランドル(R.V.V)優勝を決めたファビアン・カンチェラーラは喜びというより、安堵という表情で語った。

筆者が前回カンチェラーラに会ったのは1月のスペイン・アリカンテ州で行われていたチームトレーニングキャンプの事だ。3週間に渡って、チームメイトとの模擬レース形式でのトレーニングを行う彼は、レース前に見せる他を寄せ付けない集中しきった表情とは違うリラックスした表情で、トレーニングキャンプ、フランドル、そしてパリ・ルーベについてこう語った。「フランドル、そしてパリ・ルーベでの勝利は今シーズンでの最重要項目だと思っている。昨年は万全の体制でレースに臨んだが、知っての通り表彰台の頂上に立つ事は出来ず地面に転がる事になった。なので、2013シーズンはシーズン前のオフを長めに取って心と体をリセットした上で、まだ1月だが既にチームメイトと共にレースペースで連日200kmを追い込んでいる。クラシックにはどんな作戦も通用しない。強い奴が勝つ。ただそれだけだ。」

もちろんすべてのクラシックハンターが、勝ちたいと思っているフランドルを勝ちに行くと言わないエースは居ないだろう。しかし、あの日、私の前で語ったカンチェラーラの目からは単なるリップサービスではなく、なんとしても勝ちに行く、勝たねばならないという熱い思いが見て取れた。

作戦は通用しない。と語ったのは、ワンデイレースや変わりやすい春のヨーロッパの天候により、展開がどうなるのか予想がつかないためにどんな作戦も通用しないという意味であり、チームとしての作戦を考えないという事ではない。実際に、チームではこの5ヶ月間、あらゆる展開を想定して作戦を練り込んで来たというが、それでも100周年のフランドルは予想よりも遥かに速い展開でレースがスタートし、僅か19km地点で地元ベルギーの期待を背負ったトム・ボーネン(Omegapharma-Quickstep)が落車によりリタイア。この事についてカンチェラーラは、「落車の瞬間、私はトムの2台程隣に居た。昨年の事がフラッシュバックの様に目の前を過り、彼が無事にペロトンに復帰してくる事を3分程待っていたが、無線でレースへの復帰は絶望的だと聞いた。昨年は私が不慮の落車によりリタイアし、今年はトムがリタイアした。彼の気持ちが痛い程に解るが、これがクラシックレースだ。」と語る。

早くから逃げ集団の発生するレース展開は、Radioshackチームにとっては好都合だった。100周年という記念的なレースということもあって「レースの展開は、変だった。その変な雰囲気で速いペースで展開したレースによって、BMCやTeam SKY、Omegapharmaと言ったチームのアシストは疲労して行っているのは目に見えていた。」

後半の連続するミュールに差し掛かり、アンドレ・グライペルが集団から抜け出して先頭グループを形成した時からRadioshackにとってのレースは本格的に動き始め、この動きを潰すべく、今年からチームに加入した2度のフランドルの覇者、ステイン・デヴォルデルらが先頭となって集団を牽引。

レース終盤の異型周回コースに入り、勝負どころの1度目のオウデ・クワレモントでは80人程度居た集団が2周目には60人程度に絞られ、3周回目に差し掛かる時に残ったのは30人程度のみ。「オウデ・クワレモントに差し掛かる時には、事前に考えていた5つ程の展開のオプションからチームに残されていたのはプランAかプランBの2つのみだった。すなわち、オウデ・クワレモントで仕掛けて独走するか、集団のままゴールスプリントに持ち込むかだ。

オウデ・クワレモントの手前でグレゴリー・ラストから、他の選手達が疲弊しているという話を聞いて、スプリントに持ち込むというオプションもあったが、オウデ・クワレモントでフルスロットルを入れる作戦を取った。プランAだ。その後は何も考えずにただ踏むのみ。」こうして、2200m、平均こう配5%程度のオウデ・クワレモントで集団から仕掛けたカンチェラーラに付いて行けたのは、ペテル・サガンただ1人。そのまま30秒先行するヨルゲン・ルーランズ(Lotto-Berisol)を捉えるが、この瞬間を捉えた写真を観ると解る通り、既に勝負はこの時点でついていた。最後のミュール、パテルブルグまでの3kmでもサガンの回復を許さず、そのままアタックして独走態勢を作ると、残りの13kmを4度のタイムトライアル世界チャンピオンとしての見事なまでの独走を決めて、100周年のフランドルを手中に収めた。


ゴールする直前に、喜びを表現するというよりは、勝てた事を噛み締めるような表情を見せた事を聞くとカンチェラーラは、「この5ヶ月は本当に家族に取って難しい時間だった。知っての通り昨年のツールの期間中に2人目の子供が生まれて、私達は少し長めのオフシーズンと家族の時間を取る事にしたが、この5ヶ月間はこのレースに集中するために5ヶ月のうちでスイスの自宅で過ごせた時間は両手で数えられる程、僅かに10日程しかない。
0歳の子供が居る家庭にとってこれは簡単な事ではないし、長女は既にすべての事を解っている。その上で、私達は私のパフォーマンスが永遠に続くものではないと知っていて、今、この時間を楽しむために、この選択を選んだ。だから、この勝利は家族のものであり、それをサポートしてくれたチームのものであると思っている。この2度目のフランドルでの優勝は、私達にとって特別なものだ。」

連続する春のクラシックレース、カンチェラーラは、明日、4月3日に開催されるUCIカテゴリー1.HCのスヘルデプレイスへの出走を先程表明した。そして、次の日曜日、7日にはクラシックの女王、パリ・ルーベが待っている。
 
 

report:Kenji Nanba
photo:Kenji Nanba
date:13.4.1