Specialized GPL特集Vol.3 All-New S-Works EPICに乗る

13年前に日本人として最初に29erに乗り、昨年650Bを日本に初めてマトモに紹介した私をして言わせて貰いたい。フルモデルチェンジしたS-Works EPIC 29は究極のクロスカントリー・マウンテンバイクである。

MTBの総本山、ロッキーマウンテンのシングルトラックで新型EPICを転がしながらアドレナリンが出まくった頭の中で初めて29インチフルサスに乗っているのに、心のどこかに「29インチのフルサスはなー・・・」という思いが全く存在しないという体験をし、遂に達観した。文句無し。究極。パーフェクト。29インチフルサス以前に、ホイールサイズを抜きにして単純にXCバイクとして究極。説明するのが大変なので、もはやこれでインプレを締めたいぐらいだが、流石にそれでは読者の皆さんに怒られてしまうので詳細を語りたい。

2年の歳月を掛けて20人を超えるエンジニアがフルコミットで、ワールドカッパーからエンデューロレーサー、トレイルライダーまですべての意見とデータを集めて完成させたのがニューEPICなのは、単なる宣伝文句なのでハッキリ言ってどうでもいいが、29erフルサスなのに完成車重量9.07kg(ワールドカップ仕様)というのはどうでも良くない。9.7kgなら解るけど9.07kgは軽すぎる。

今回のS-Works EPICには、フロントシングルでアグレッシブなジオメトリーと専用フレームを持つEPIC WorldCupと、フロントダブルのXTR仕様でトレイルやマラソンレースにも目を向けたオールラウンドよりの通常モデルがある。主に長時間乗ったのは通常のEPICの方(通常のEPICと言っても、WCと比べてどちらが上と言う訳ではなく、用途に合わせたモデルと考えた方が良い)なので、そちらについて紹介したい。

見た目はあまり変わっていないが、どこから紹介しようか悩む程にすべてがオールニューなEPIC、実は乗る前はEPICは良いんだけどブレインショックがなー・・・。と思っていた自分が居たが、乗ると開眼、目から鱗。フルモデルチェンジしたブレインショック、特にリアユニットの性能向上が著しい。

慣性イナーシャバルブで、路面状況を把握してペダリングと路面からの入力を自分で判断してサスペンションバルブの開閉割合を機械的に自動コントロールするブレインだが、フロントフォークを含めて、ヒルクライム、ロックセクション、高速のウォッシュボード、シングルトラックとあらゆる場面で文句の出ない程に煮詰められており、一度セッティングを出してしまえば、ライディング中に一切触る必要がない程に完成度が高くなっていた。個別の条件での走りはフレームとの話があるので後述するが、かつてのブレインが持っていた、ちょっとバルブ開き過ぎとか、締まり過ぎとか言いたくなるような状況は一切なく、とにかく性能向上が著しい。また、サスペンションサグを1プッシュで出せるAUTOSAGという機構が装備されたのでライディング前のセットアップが簡単になっている。

同じく完全に新設計されたフレームは、リアバックの剛性向上が著しく、スペック面でもユニットのリア側のマウントのワイドスタンス化が図られておりリアエンドもトレンドの142mmとなっているが、軽量化以前に相当に固められたこのリアバックだと、通常のフルサスでは硬すぎると苦情が出て来そうな程に縦、横、捻れともにあらゆる場面で硬いのだが、この剛性が許される理由がSpecializedを業界の最王手ブランドの一角に成長させた立役者のFSR独立懸架サスペンションだ。

90年代前半のフルサスペンション革命のさなかに登場したこのシステムは、クロスカントリー用としては動き過ぎるとして、ダウンヒル系からの絶賛を脇にいまいち評価されなかったが20年に渡る熟成を経て、遂に今回究極系に至ったと言える。ガチッと硬めたシャシーに動きまくるスイングアーム、そして究極にチューニングさせたサスペンションを搭載するという、サスペンションのついた乗り物の王道に乗っ取った設計は、まず下りベースで語るならロッキーマウンテンならではのロッキーなセクションに高速で突っ込んで行っても、視覚に入って来る景色は偽物かと思える程にフラットなリア周りの走りを実現してくれる。スイングアームにしなりを持たせたバイクでもこれは実現出来るが速度域が高くなればなる程にシャシー剛性の弱さがデメリットとして浮き彫りになってフワフワとコンニャクに乗っているような安定のなさが恐怖となって帰って来るが、新型EPICのFSRにはこれがない。このダウンヒル性能なら、恐らく90年代中盤の岩岳やマンモスマウンテンならDHレースでも、DHバイクと並んで優勝を争える程の成績を出せるだろう。とても100mm級のフルサスペンションの下りとは思えない。

一方で、ヒルクライムに入ると前述のブレインショックが絶妙な仕事をして、トラクションを稼ぎつつバイクを前に進ませる。独立懸架サスペンションなのでペダリングによるチェーンの引っ張りは存在せず、ハッキリ言って、過去最高に登るフルサスペンションバイクだ。26インチも29インチも650Bも全部含めて過去最高。しかもハードテイル並みに重量が軽いので否定する要素が一切ない。

レーシングウェポンとでも言いたくなるようなEPICの走りだが、フロント三角の剛性自体は、横と捻れ方向にはマイルド。固めまくったリアバックからすると、拍子抜けする程にヌヌヌっと捻れるが、これがファイヤーロードの超高速ダウンヒルからシングルトラックのコーナリングまである程度スピードの出たコンディションで絶妙なフレームの捻れを実現し、フロントとリアホイールに微妙な捻れによる角度差を醸し出して、マシーンのような走りではなく人の感覚にマッチした人馬一体のコーナリングを実現している。要するに走っていて26、29云々を抜きにして気持ちいい。一方で、大きな負荷が掛かった際は捻れ方向にも捻れすぎず狙った通りのコーナリングアングルを維持して走る事が可能だ。

縦方向へのフレーム剛性はフロント三角も非常に硬く、そこはサスペンションに仕事させるという考え方が乗っていて手に取るように解るし、
つまり、このEPIC、ショックにエアを入れまくって正しくサグを取らずに乗ったり、無理にユニットを固めて乗ったりすると途端にバランスが悪くなるので、指定状態を中心に微調整の域でセットアップして、そのまま乗るのが最強の状態なのだ。なので前述のとおりライディング中に触らないのが吉だし、AUTOSAGシステムをわざわざ新設計して付けた理由もそのためだろう。

また、29erのホイールと言えば今までMAVIC CROSSMAX SLRの一人勝ちとも言える状態だったが、このEPICとのマッチングでは、装着される同時開発の新型カーボンホイール ROVAL Control SL 29との組み合わせは究極の域である。リム部の重量が相当に軽くなっているので走っていて29erを忘れる程に転がりが軽く(事実、走りながら所々で29erだと言う事を忘れていた。)、スイッチバックの登りで切り返した時の立ち上がりにも29らしいネガが何もないどころかすべてポジティブ。

ジオメトリー面でもスタンドオーバーハイトの確保や、フラットサーフェイスのヘッドセットトップキャップを採用するなど、イメージ写真にわざわざアジア人のライダーを掲載して来るだけあって、我々の事も考え抜いてある。

Specializedが29er市場に進出して7年程の月日が流れただろうか。筆者の友人でもあるゲイリー・フィッシャーが00年代前半に29erを押し進める中、完全に冷めたスタンスで29erを見送っていながら、機が熟したと見るや一気に投入して、あっという間に29erの中心的リーダーになってしまいワールドカップ、世界戦はもちろんオリンピックまで29erフルサスで勝ってしまったSpecialized EPICに、そりゃーないよと、ちょっと言いたい事があったのは事実だが、フルモデルチェンジした新型EPICに乗ると唸らされてしまった。べた褒めになってしまっているが、ちょっと言いたい私をして、べた褒めにならざるを得ない。敢えてケチを付けるなら、XTRの純正チェーンリングが装着出来ないことぐらいしか見当たらないが、これもPF30と新設計されたクランクアームが無茶苦茶軽いのでケチになっていない。

レーシングバイクとしてのパフォーマンスが競合と比べて抜きん出る程に素晴らしいEPICだが、詳しく競合と比べてどうなのかは、また改めて同一条件でテストしてみたい。一方で、トレイルバイクとしての絶対的な速さや楽しさ、安定性、安心感、快適性、すべてにおいて抜きん出ている。(ワールドカップ仕様は、よりレーシング寄りのジオメトリーの為、ややアグレッシブでフロントシングルなので日本の山には普通の人の足では合わない。)トレイルライディングには100mmから120mm級の26フルサス以外使う事のなかった私だが、もはや26インチの時代は終わってしまったとしか言いようがない。時代もEPICも来る所まで来てしまったのである。寂しい気持ちもあるが時計の針は戻る事はない。


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report:Kenji Nanba
photo:The Bike Journal
date:13.7.17