冬のグランドツーリング。伊豆半島編

まだ僕がやんちゃだった10代の頃、僅か2歳年上なのに21歳の若さでMTBクロスカントリー全日本チャンピオンになった宇田川聡仁選手という選手が居た。同じ世代のアマチュア選手にとっては、逆立ちしても太刀打ち出来ないスーパースターの宇田川さん。

彼にあやかろうと、当時の松本組(当時はマウンテンバイクのトッププロの多くは練習環境の良さから長野県松本市に住んでいた)の若手達で真冬は暖かい所で合宿するぜ~と叫ぶものの悲しいことにサイフの中身は超軽量バイク並の軽さ。伊豆の宇田川さんの実家に無理言って雑魚寝で泊まらせてもらって修行に勤しんだもんだ。この合宿にはTBJ代表の難波さんも参加した事があって、ちょっと前に食事しながら当時の話題で持ちきりになった。

21歳の全日本チャンピオンを生んだビクトリーロードと呼ばれた伊豆半島南部は、厳しい峠もあるけど冬でも海岸線では氷点下に下がる事はほとんどなく、かつ何と言っても景色が良い。海の景色も山の景色も富士山までもが構えている。知ってる道の中からこれは凄いよ。という道を選んで、冬のグランドツーリング・伊豆半島編として紹介したい。ちなみに伊豆半島編とあるけど、次の計画は未定。反響が大きければレパートリーの中からもの凄いモデルルートを紹介したい。

大人のグランドツーリングでは、The Bike Journalの読者の大半が東京圏に住んでいることから、東京から夜に出発、翌日の夜に家に戻って来られるようなルートを紹介する。

例えば、金曜日の仕事が終わってバイクを持って、新幹線こだまに乗って熱海へ行くか、旅情緒溢れる小田急のロマンスカーに乗って行き、ローカル線に乗り換えて伊東方面へ。温泉でしっぽり温まり、お宿に泊まって日の出とともにチェックアウト。早朝の静かな海沿いを南へとアップダウンの続く道を走った後は、伊豆の峠を走りまくって修善寺方向へ抜ける。

このまま魚を食べて電車に乗って帰って日曜日は家族サービスでも良いし、修善寺にもう一泊して、サイクルスポーツセンター(CSC)のサーキットで己の限界までもがきまくるとか、レンタルバイクもあるので2013年の全日本選手権が行われたMTBコースの一部を体験するとか、国内唯一の250m板張りバンクのベロドロームを見学するというのも良いだろう。夏ならプールもあるし、CSCは遊園地の中にあるので家族は土曜日から修善寺入りで遊ばせておいて、自分は走りに行って日曜日の午後に合流・・・とかね。

伊豆半島編では僕の知っている珠玉のウルトラツーリングルートをサンプルとして紹介する。この前のツール・ド・東北の記事をTBJで掲載したらYahoo!とコネクションが出来て、正式にお願いをしたら「ルートラボ」のコンテンツをThe Bike Journalで使って良しとの快諾を得たのでまずはルートラボでルートを紹介しよう。

(C)Yahoo! JAPAN、(C)ZENRIN、(C)国土地理院

こんなルート

ドッカ~ンと登るのは3回半。その登りのどれもがキツい部分の勾配が10%を連続するようなヒルクライムで、体力と耐力がないと初心者にはあまりオススメできないかな。


今回は熱川起点で動いてみた。写真では輪行してきたフリをしてみたけど、別の取材と並行してだったので僕は空身でサクッと伊豆熱川駅で合流しました。

大人の情緒ある旅なので食事と宿にはこだわりたい。伊豆と言えば金目!伊豆って確か金目の水揚げ量日本一だったかで、煮付けが美味いという印象が物凄く強い。上質なタンパク質はサイクリストに必須だし、EPAにDHAも豊富で走った後に食べれば甘辛いタレと相まって最高でしょう。間違いない。塩辛も美味しくて、夏場なら走った後の塩分補給にもなるし。食べ過ぎ注意。

大人のグランドツーリングなので宿にも少しはこだわりたい。今回は熱川プリンスホテルに泊まってみたが、話が面白いフロントマンのおじさんが快くフロントでバイクを預かってくれた。東伊豆では名前を知らぬ者はおらぬと言われる希代のアスリートとして有名だった宇田川さんの影響力だろうか。あざっす!


起床は朝5時。寒くても朝からしっかり温泉に入って身体を温めてから乗れば全然寒くないよね。温泉に浸かりながらストレッチをして身体をポカポカさせてから走り出せば、朝のあのピリっとくる冷気の痛さも逆に気持ちが良いくらいだ。今回は取材の都合で、海沿いの道はサポートカーに乗ってスキップ。経験上、平日は早朝でもクルマが多いが週末は早い時間ならずいぶんと少ない。

15km程走ったら桜で超有名な河津に到着。ここから山岳ステージの始まりだ。今回の取材では、僕はここからスタートして、途中でサポートカーからバイクを降ろしてとっかえひっかえしながら全部乗った。途中で撮影の為に西伊豆スカイラインのアップダウンを10回は行ったり来たりしたので、全部で3000mは軽く登った。その間、朝にパンを2個食べただけで、夕方まで飲まず食わずで走っていたので流石に疲れた。というか、こんなことをしちゃダメダメ。撮影とは何と厳しい世界だ。

河津から県道14号を登ると国道414に出る。

少しずつ高度を稼いでいくと、目の前にはドドン!とグルグルグルループ橋。首都高のグルグルグル大橋ジャンクションを自転車で走ってみたいと思った人は少なからずいるはずだ、是非この伊豆のループ橋へ!僕もその1人なので。今回は登ってきたけど、下りはなかなか味わえない感覚がある、それはバイクを右に同じ角度で倒したままずっと下り続けるというもので、滅多なことでは味わえないとても貴重な体験。ループ橋は国道なのでそれなりに交通量があるから安全第一で。


石川さゆりの天城越えがついつい口を衝いて出てしまう天城への登り、そうこうしているうちに国道を右に折れれば旧道での天城峠越えだとの看板が。どりゃっと突撃したら、10年前も未舗装だったけど10年経っても未舗装のままだった。川端康成の伊豆の踊り子だ~と高鳴った鼓動はここでチ~ンと沈静化。撮影用のバイクだったので傷を付けるわけにはいかないので断念。ウォーミングアップはこれまでだ。


峠である天城トンネルを抜けてしばらく下ったらそこは天城湯ヶ島、ここからが本当の峠。最初はだらだらと農村部を縫って高度を稼ぐが、標高500m程の所で石材所を右に曲がった最後の最後が地獄の裏仁科(通称)。10~12%の斜度が続く。もうね、取材なんだから勘弁してよ、捏造でいいじゃん!登った体でいいじゃん!と思って言おうとした矢先にエンジンサウンドを響かせてサポートカーはさっさと行っちゃった。全部登れと言う事か。今回はコンパクトクランクが装着されており、インナー34Tの恩恵でサクサク回して登れたが、普段の39X21のギアだったら一生懸命に踏まないと登っていかない。で、登りきったらスタッフは優雅に弁当食べてて「おつ~」と一言。


地獄の峠を登りきったら神の山の登場だ。西伊豆スカイラインの景色は、国内外の色んなCMのロケ地に使われるだけあって息をのむ程にどうしようもなく美しい。業界言葉では、神ロケ地と言うらしい。僕は業界人じゃないけど。さっきまでの辛さは乳酸だけ僅かに残してサラッと忘れちゃったけど、仁科の辛さは、10年経って自転車が格段に進化してもやっぱり記憶に焼き付く程にキツい。重力は10年経っても変化していなかった。と言う暇もなく海まで下って、また登ってと言われる。坂マニアの為のモデルルートだね。

登って降りてまた登って、達磨山を目指しペダルを踏んだ。視界には荒涼とした山々の隙間を縫うようにしてアップダウンの無機質なアスファルトが伸びている。尾根ルートの西伊豆スカイラインに出ても下った勢いでは登りきれない長さの登りが多く、幾度となくシフトチェンジとダンシングを繰り返した。まるでサイクルスポーツセンターの5kmサーキットのようなひたすらなアップダウン。そして山々の切れ間から時々見られるのは日本一の山である霊峰富士がデデ~ンとこちらに襲いかかるような迫力をもってそびえている。

自転車で駆け上がり、風に揺れるススキの合間から雪の被った富士山を眺められただけで、もう今日という1日はなんと幸せだ。それにしてもこの西伊豆スカイラインのロケーションは、何度走っても物凄い。平日という事もあるかもしれないが、走っている最中にすれ違った車は数えられるくらい。無料で走れる道で、これほどのロケーションを持つ道はちょっと思い浮かばない。北海道とかに行けばあるんだろうが、東京から近いという意味ではダントツに凄いよ。そこを自転車で走られるんだから。写真のように、天気が良いと朝と夕方などは神の陽が降り注ぐし。サイクリスト的には、神走り地とでも言おうか。撮ってもらった写真のライディングも、いつもよりもカッコ良く見えるのは気のせいだろうか?自画自賛ですいません。

このルートを走る場合は、途中に補給ポイントは自販機も含めて一切ないと思った方が良いので、ちゃんと準備した方がいい。西伊豆スカイラインに至る手前のショップでしっかりと補給をし、補給食と水分をしっかりと持って挑みたい。それと、温暖な海岸線と比べて内陸部に入ると気温が一気に低くなる。伊豆といっても山の上は標高が1000mほどあって、真冬には道が氷る事が多々あるし、雪が積もることもままある。海岸線のみを走る場合のウエアリングと、内陸部に入り山に登る場合のウエアリングは変えたほうがいい。

山間部には1日中太陽が当たらない道もたくさんあるし、途中にはトンネルあるし、万が一日が暮れてしまったときのためにライトは必須。 霧の西伊豆と呼ばれる程西伊豆スカイラインは天気が変わりやすい。無理して先に進んでしまっても、目的地や駅まで真っ暗な山道だとか、下った後にも小さな山を越えなきゃならんとか、想像以上に山深いのでヤバいと思ったら早々に撤収。勇気ある撤退。電車で来週また来れる。

このモデルルート以外の道でも、元気があったのなら、山伏峠とか亀石峠を越えて東伊豆に下るとかも自在に選べてバリエーションは本当に豊富。伊豆半島は電車が東側の下田まで伸びており、真ん中は修善寺に駅がある。東側に降りればどこかしらで電車に乗ってサクっと帰られるってのがミソ。

電車に乗るその前にはこれまた温泉に新鮮な魚介類がどこかしらで食べられる。こういったロケーションなので温泉宿が伊豆周遊プランとか合宿プランなどを出してくれたら面白い。洗車場があって、安全なバイク保管庫があって、メカニックやローラーが踏めるスペースがあって、バイクの発送にも対応していたりしたらとつい考えてしまう。西・南伊豆は本当に自転車パラダイスだ。この冬に1度は訪れたいよね。

今回のバイクは日本の自転車歴史そのものであるTHE MIYATA。鉄道で鉄フレームに乗りに行った。西伊豆に行ったのも理由がある。この話はまた後日。
 
 

report:小笠原崇裕
photo:The Bike Journal
date:13.12.10